蝶が一頭。
「蝶は、何で一頭なんでしょうね」
ぽつり。
零れた声。
「一羽のほうが似合うでしょうに」
手のひらの中でばらばら。
燐粉で汚れた指先きらきら。
もう飛ばない。
飛べない。
さよなら。
パンパンと手を叩いて払う。
空気がキラリキラリときらめいていた。
地面に落ちた羽の欠片踏み躙るその表情は氷みたいに透明で。
まるでお前と、同じだな。
無意識に落ちた声。
まるで自分のものじゃないような響き。
振り向いた顔。
わらう。
やわらかくやわらかく。
西日に透けてひかる茶色の髪。
伸びてきた指先、綺麗な爪の形、まだ少しきらきらと。
遮られた光。
覆われた視界。
目を開いていても何も見えない。
拒絶。
「そうですね。僕の存在は軽いですから」
まるで蝶のようにひらひらと。
引き千切られた羽のように。
いつか青き巨人に薙ぎ払われて地に落ちるのか。
いつか飛ばなくなるのか。
お前も、その蝶のようにバラバラに。
なぁ古泉。
「僕なんて、僕という存在なんて、望まれなければ存在しなかったんですよ」
だから彼女が必要とする限りは、僕は飛ぶのでしょう。
だから大丈夫だと?
けれど。
必要としなくなったら?
必要でなくなったら?
古泉は答えない。
目は覆われたままだ。
お前は、古泉、お前は、
「飛べよ」
「その時が来れば」
「ずっと飛んでろよ。落ちるな」
「落ちませんよ」
「壊れないでくれ」
「そう簡単にはお役御免にはなりませんよ、きっと」
「古泉」
古泉がまた黙る。
蝶の羽のように千切れて、
きらきらと。
燐粉をばら撒いて。
「…………どうして、あなたが泣くんですか」
泣いてねえよ。
うそつきですね、と古泉のもう片方の手が俺の頬を擦った。
なぁ。
なぁ、落ちるなよ。
壊れるなよ。壊れてしまうなよ。
お前という存在を、
願う。
願う、だけだ。
古泉の手は目元から離れない。
何も見えない。
ただ、手の体温だけ。
その手はきらきらと。
燐粉で光をまとっていた。
残像の中の指先はまだ、ひかりをまとっていた。
俺は飛べない。
一緒に飛べないということは、一緒に落ちることもできない。
いつかは落ちるというのなら。
もう飛ぶな。
飛ばないでくれ。
お前が軽いというのなら俺の分の重さも持っていけよ。
地上に繋ぎ、
「お前は、」
蝶にはなるな。
同じように
あの蝶のように
バラバラに光をまとって。
きらきらと、
きらきらとこわれていくな。
俺が重しになるから。
「いくなよ」
いくな。
もう飛ぶな。
いつかは落ちるというのなら、
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