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略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by - 2026.06.11,Thu
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Posted by バタフライ効果 - 2010.02.06,Sat

※注意※
この話はオフ本『Cat holic』に寄稿したファンタジー猫耳話『魔法使いの猫』と同じ世界観の話となっております。本を買ってくださった方へのささやかなおまけとなります。そのためこれだけ読んでも意味がわからない場合があります。(読んでいてもわからない可能性もあります…)

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 魔法の呪文というものはいわゆる「タグ」だ。「このタグを打ち込めばこういう風に画面上で反映する」のと同じことで、魔法のお約束が「呪文」であり「タグ」なのである。
 たがタグ――呪文を知っているだけでは魔法を発動させることはできない。
 タグとその効果を正しく理解しその構築後の状態を想像し、そのタグを世界というスペースに書き込み、接続させることに成功すると魔法が発動する。つまりこれを行える者のことを魔法使いと呼ぶのだ。
 簡単なタグを覚えることは努力の領域でどうにかできる部分ではあるが、タグをスペースに書き込むこと――これがなかなかに難しい。現代人の私たちには魔法発動機械のパソコンがありキーボードが存在する。だが魔法使いは生身の身体で世界と繋がらねばならない。世界と繋がるケーブルとなれることが――これを言葉で表現することはまず不可能――魔法使いの最低条件である。
 そして容量である。
 容量は生まれたときから一人ひとり限界が決まっており、筋肉のようには鍛えることができない。
 それまで使っていなかった手持ちの容量を使うことで容量を広げるということは可能だが、生まれ持った元々の容量以上に増えることはない。何より、大きな容量をこなすということはそれだけで膨大な精神力と体力を消耗する。
 だが外付けの容量を設置することは可能だ。杖だの水晶だの指輪だの装飾品に容量を持たせ、それを用いることで容量を得るのだ。
 しかしどんなものでも容量を持たせることができるわけではない。それは希少な木や石など、特別なものにだけ可能なのである。高価な石を染料として用いて染めた絹糸など、加工によって容量を持たせることができる。だから魔法使いは貴族も持ち得ないような高価な宝石を隠し持っていたりする。
 魔法使いはたいがいが貧乏だ。なぜなら稼いだ全てを魔法とその研究につぎ込むからである。外付けの容量を得るために、魔法発動に必要なものを揃えるために、金をつぎ込む。元から持っている容量で何とかすればいいではないかと思われるだろうが、外付けの容量は膨大な容量を必要とする大きな魔法を発動させようとすれば必須なのである。そうすると魔法使いはどんどん貧乏になる。金子を得るために魔法使いは仕事のえり好みができなくなる。魔法という学徒が世間から冷たい目で見られることが多々あるのは、そういった汚れ仕事に手を染めた魔法使いの風評によってのものだ。そのため魔法使いたちは安定した収入と評判を得るために組合を作った。これが魔法使いのギルドだ。ギルドに登録している魔法使いはギルドに仕事を紹介してもらい、紹介料にいくらかをギルドに収める。
 大概の魔法使いはこのギルドに登録している。
 その中に、長門有希という当代きっての大魔法使いがいる。
 彼女は手持ちの容量が莫大であり、身のうちにこれまた膨大なタグを――魔法を埋め込んでいる。莫大な容量を持っている彼女だからこそ可能なことなのだが、口さがない魔法使いは彼女を「自律する魔法」などと嘯く。
 長門は、抱え込んだ魔法量が膨大すぎて年を少女の姿で留めてしまった。いや、止まってしまったのだ。
 普通の魔法使いならば魔法を行使するときだけしか世界と繋がれない。だが長門は常に繋がっている。その結果外見的変化は訪れなくなった。世界という大きな流れの前に、人間の時間という小さな流れなどは、ないに等しい。世界と繋がり続ける長門の時間は人間のものよりもずっと世界のそれに近い。それが余計に彼女を「自律する魔法」と呼ばせた。世界と繋がることの負荷を知る魔法使いたちにしてみれば、長門という存在は人間の域を越えている。
 だが長門が他の魔法使いに畏怖される理由はそれだけではない。
 長門はギルドの依頼で、人の道を外れた魔法使いや悪事に手を染めた魔法使いへの制裁を行う。
 普通の人に魔法使いを裁くことは難しい。魔法とは十分な凶器であり、武器なのだ。戦えるのは同じく魔法という武器を持った相手だけだ。
 魔法には善悪はない。
 計り知れない実力を持ち時間の概念から外れた長門にも、善悪は、ない。
 世界と繋がっている長門にとって、そういった小さな概念は魔法を溜め込むほどに遠くなってしまったものだった。
 象に蟻の気持ちなどわからない。極限に注意してようやくその姿を認識できる、といったくらい、長門の感覚は人からずれている。
 ギルドは人の定めた枠をはみ出した魔法使いを裁かせる位置に長門を置くことで、それを長門自身のストッパーともした。
 そしてそんな長門の小さな相棒――黒猫の姿の魔族は、長門の水先案内人であり……もしも長門が道を外れた場合の、外付け装置だった。
 実に嫌な仕事である。
 キョンは初め、絶対に嫌だと突っぱねた。
 面倒だし、面倒くさいし、何よりもしもが起こった場合、後味が悪い。
 だが白烏の姿の魔族はそれを切り捨て、無理やりキョンを長門の元へと送り出した。
 送り出したというよりも、あれは追い出しただ、とキョンは憤慨する。
 今でも依頼を拒絶した際の、魔族と人間との仲介・折衝役の白烏の姿の魔族がレンズ越しの目を細める様まで、キョンは思い出せる。
『俺の言うことが聞けないのか?』
 決め手はその一言と眼差しだった。
 魔族は人間と違って力関係が全てだ。
 つまり、キョンより白烏のほうが力が上なのだ。キョンより上というよりも、白烏は魔族のヒエラルキーの頂点に近い存在だ。だから仲介・折衝役が務まるのである。
「――彼はそれほどまでに強いのですか?」
 なぜキョンが猫の姿で長門の使い魔をしているのかは古泉の疑問であり、こうして長く行動を共にするようになってその理由もわかった。そしてその事情について聞いたのも純粋に疑問だったからなのだが、口を突いて出たのはまた少し方向の違う疑問だった。
 古泉の言葉に、キョンは鼻の上に皺を寄せた。古泉の疑問は尤もなのかもしれないが、キョンにしてみれば愚問だった。
「強くなければ突っぱねてたっつってんだろ」
 逆らえなかった。
 だからキョンは長門の使い魔の真似事をしている。本来、長門ほどの力と容量を持っていれば、使い魔などという外付け容量は不要なのだ。今ではこの立場をなかなか気に入っているが、白烏のキョンへの要求はかなり酷いものだった。キョンは目付け役という役目こそついているが、本気で長門が行動を起こした場合、本当にストッパーになりえるのかと言われれば、無理だろう。魔族は魔法使いよりもずっと魔法に近しい存在だが、長門が近いのは世界なのだ。そんな存在にストッパーを付けてみたとしても、あってないに等しい。はっきり言って今のキョンの立場は長門の使い魔というアクセサリだ。もしくは愛玩物。魔族の中でのキョンの位置は決して低くはないのだから――折衝役を務める魔族に存在を認識されているのだからそれほど低くはないだろうと古泉は推測する――、酷いとしか言いようがない。
「失礼、言い方が悪かったですね。それほどまでに強制力があるものなのですか?」
 古泉の物言いに、キョンは鼻で笑う。
 人間には計り知れないだろうが、魔族には魔族の決め事と決まり事があり、人間が思っているよりもずっと規則に厳しいのだ。
 だが理由はそれだけではない。
「今はお前んとこの組織と契約してるから、あいつの姿を見たことがあるな?」
「ええ。白い、大きな羽をお持ちの、白い方でした」
「確かにあいつは白い。だがお前らの目が見ている白ってのは、あいつの力の片鱗だ。お前らの認識ではそれくらいにしか判断できないから白く見えるんだ」
「実際には違う、と?」
「烏ってのは元々黒いんだ。でもあいつは白い。白烏ってのは、色が抜けた姿じゃない。あれは黒を飲み込んだ白なんだ」
 わからない。
 古泉には意味がわからなかった。
 人間と魔族では、同じ言語の元で会話をしていても、やはり意思の疎通は難しいのだ。
 黒という色は力を引き寄せ飲み込む。自然の濃縮された気や体積した時間や魔法の残りかすなど、力が凝って時間を経て自我を持ったものが魔族の元だと言われている。だから魔族は黒をまとっているものが多い、という。そのことは古泉も知っている。
 だが、黒を飲み込んだ白、と言われても古泉には理解しがたい。
 普通に考えたら、白に黒を混ぜたら灰色だからだ。
「わかりません」
「黒を飲み込むあいつの白のほうが大きいっていうことだっての」
「それがそもそもわかりません」
 キョンもそうだが、魔族は大概黒をまとっており、黒が前提なのに、いきなり白のほうが大きいと言われても困るというものだ。
 何がしかの突発的な変化の結果なのだろうという憶測は立つが、魔族が魔族についてしゃべるということは珍しいので――魔族は自分たちのことを話したがらないのだ――できるだけ言葉を引き出したいという卑しい目論見もあって、古泉はわからない、と言葉を重ねた。
「……あいつの目を直接見たことがあるか」
 キョンの獣の形の耳が嫌そうに少し立つ。
 白烏の目を思い出したのだろう。
 魔族にとって言葉とはたとえ日常会話でも、人間以上に発するだけでいくらかの力を持つ。
 だから滅多なことでは本当の名前を口に出さない。魔族の名前とは本質であり、力だからだ。
 キョンという名も、便宜上のものであって、キョンの本来の名ではない。
 名前を知られることを魔族はことのほか嫌う。魔法使いに知られようものなら、名に縛られて使役と下されることがある。存在自体が目に見えない力が凝って構成されている魔族は、人にとってはただの音である言葉に縛られる。人と存在の確立の仕方が違う。
「目、ですか。直接……は見たことはありません」
 それもそのはずだ。
 白烏はレンズを――人の言うところの眼鏡をかけているのだ。
 それが一層、白烏の冷たい容姿を酷薄に、冷徹に彩っている。
「魔族が眼鏡とは、確かにおかしいですね」
「……確かにおかしいが問題はそこじゃない」
「じゃあどこですか」
「邪眼なんだよ」
 キョンの言葉に、古泉は一瞬思考が止まった。
「あの、見るものを縛る、という?」
「縛るなんてもんじゃない。逆らえない。あれ自体が強制力の強い魔法と同じなんだ」
「眼鏡で邪眼を抑えているのですか」
「確かに特殊な加工してあるレンズだが、そんなもんで邪眼が抑えられるかよ」
 あれは存在するだけで力なんだ、とキョンは本当に嫌そうに眉をしかめた。
「では何のために眼鏡を…」
「目の中に金色の輪っかがある」
 キョンは親指の先と人差し指の先を触れ合わせて輪を作り、己の目の前に翳す。
「白い羽に――金の輪とは」
 古泉の脳裏に安直なイメージが浮かび、そっと苦笑した。
「まるで“天使”だろ」
 古泉の苦笑を肯定して、唇を歪めたキョンは指で作った輪を解く。
「ええ」
「多分あいつだ」
「え?」
「眼鏡は多分ただ単に気に入ったんだろ。あいつはそういうところに意味とか求めないからな――。強制力は変わらない。もしかしたら裸眼のほうが強いかもしれないから、抑えているっていう可能性は確かにあるが」
「ちょっと待ってください」
「何だよ」
「その、彼が天使だというのはどういうことですか」
「魔族が力の塊なら、天使と呼ばれたものだってそうだろ。力自体に善悪はない」
「いえ、その理屈はわかるのですが、なぜ彼が…」
「力ある魔族はわざわざ人と関わったりしない」
 言い換えれば、人前に出たがる、もしくは人に確認される魔族は大概はそれほど力のあるやつじゃない、ということか。
「……折衝役を務める彼以外は、ということですか」
「俺はあんな目立つ白い鳥をあいつ以外に知らない。色を誤魔化すのは難しいんだ」
 元が黒だから。
「だから彼が“天使”だと…」
「人と関わるうちにどんどん人間臭くなっていきやがる」
 嫌そうに、それは嫌そうに鼻の上に皺を寄せる。
 毛もいくらか逆立っているかもしれない。
 キョンは人間が嫌いなのだ。人間が嫌いだからと言って魔族が好きだとは限らないが――魔族は人とは個のあり方が違うのだ――、どうやら白烏とは付き合いがあって、なおかつ特別な位置づけにいるのだろうということは古泉にもわかった。
 そしてなぜキョンが長門の目付け役に指名されたのかを古泉は把握した。
 キョンは古泉が想定している以上に力があるのだ。
 だがそれはキョンのまとうローブに邪魔されて計り知れない。キョンが常にまとっている防御に特化した特殊なローブは、反射率も高ければ、密閉率も物凄く、まとうキョンの魔法も制限してしまうほどのものだ。ローブの下に、キョンがいったいどれほどの力を制限しているのかが知りたくなった。だがそれを知ることはきっとないこともわかっていた。キョンは絶対にローブを外さない。
 不意に、気づいてしまった。
 キョンのまとう黒いローブの素材がいったい何なのか――を。
『白烏ってのは、色が抜けた姿じゃない。あれは黒を飲み込んだ白なんだ』
 キョンの科白が蘇る。
 確かにそれではキョンは白烏に逆らえない。
 そしてそれまで特に気にしたことがなかったキョンの左の小指にはめられた金の指輪が古泉の視線を捕らえた。
 自分はあれを知っている。
 どこで見た。
 あれは、
 あれを知っている。
 あの意匠。掘り込まれた文様は――。
 あれは――。
 金の指輪が、小さく光った。
『目の中に金色の輪っかがある』
 瞬間古泉の視界が白く焼けた。
 しかしそれは一瞬の間もない、人には決して感じられない刹那の時間。
「――彼はそれほどまでに強いのですか?」
 古泉の口が動く。
「……強くなければ突っぱねてたっつってんだろ」
 古泉の言葉に、キョンは鼻の上に皺を寄せた。古泉の疑問は尤もなのかもしれないが、キョンにしてみれば愚問だった。
「この話はおしまいだ、古泉」
 唐突な会話の打ち切りに驚く古泉を無視して、キョンは椅子から腰を上げた。
 慌てて席を立って追いかけてこようとする古泉に背を向けながら右手を振り部屋を出る。
 人気のないひっそりとした薄暗い廊下を歩きながら、キョンは手の甲を顔に近づけ、左の小指に唇で触れた。
「あんたの仕事は仲介と折衝だろ。ただの世間話に割り込んでくるなっての」
 指輪が光の粉を小さく撒き散らす。
 べらべらと白烏についてしゃべったからだとわかっていながら、キョンは唇を持ち上げてひっそりと笑う。
 魔族は自分自身のことを語らない。魔族は自分の力を、本質を知られることを嫌う。同じ理由で名前を知られることを嫌う。それは人に限らず魔族に対してもだ。
 白烏の目の中の金の輪っかの一つは――俗に天使の輪は頭上に一つだが、白烏は双眼なのだから二つあっても何らおかしくない――キョンの左の小指にある。
 もしもの長門の暴走を止めるために、キョンが長門に肩入れして魔族を裏切ることがないように、と二つの制御の意味の下にキョンに預けられたものだ。
 だがどんな理由や事情があろうとも、自分の一部をそうほいほいと他に預けたりするわけがない。魔族は人のように母の胎から生まれるものでも集団で生きるものでもない。基本的に他と関わらないのだ。邪眼の一つがないことで不自由するような相手ではないが、これは破格だ。
 キョンは踵を三回鳴らした。
 するとその姿は廊下から跡形もなく消え去った。
 仕草はあらかじめ仕込まれたタグだ。キョンにではなく――指輪のほうに。
 魔族にとって時間や空間の概念は簡単にすり抜けられるもの。
 なぜなら魔族自体が魔法の――タグの塊のようなものなのだから。影響も受けるが、扱いは息をするように身に付いているものだ。
 簡単にカット・コピー・ペーストである。
 何よりキョンの左の小指には金の指輪がある。
 これは白烏の一部。
 それが本体と引き合うのは当然。
「今夜の寝床は羽毛のベッド――」
 キョンは白烏が羽を布団にされて嫌そうに顔をしかめるのを想像して笑った。
 だがしかしキョンは黒猫なのである。
 元々の根源が何で構成されてできあがったものであるかなどといったものは形を得た時点で二の次である。
 猫に何か言うことを聞かそうなんて、それがそもそも馬鹿げた話。
 左の小指の指輪は鈴ではない。
「せいぜいが迷子札だな――」
 白烏はわざと空間の上から落っこちてきた黒猫を羽で受け止めながら、眼鏡の奥の目を嫌そうに細めた。
「寝に来た」
 白烏の羽は羽の形態を取っているが実際に触れてみれば羽毛というよりも雲や綿に近い。ふわふわとして柔らかくて暖かい。光を浴びると光をキラキラと撒き散らす。これは草木の緑と同じ光合成だとキョンは推測している。光を力として集めて己に還元している。白烏の羽は手持ちの容量でありながら、外付けの容量でもあるのだ。
 ふわふわとして柔らかくて暖かい羽に触れながら、キョンは大きくあくびをした。
 最近はハルヒに振り回されて――文字通り実際身体を掴まれて振り回されるのだ恐ろしい――のんびり昼寝もできていなかった。
 猫だというのに!
 羽の上で惰眠を貪り出したキョンに、白烏はこれ見よがしに溜め息を吐き出したがキョンはもう夢うつつだ。
 魔族にとって時間や空間の概念は人よりもずっと曖昧である。それでも久しぶりの邂逅だったのだが、キョンは白烏に挨拶もないままに寝始める。
「まったく、何のために俺の羽でローブを作ってやったと思っているんだ」
 キョンはローブを肌身から離さない。唯一の例外は――白烏の羽がある場合のみ。キョンにしてみれば同じ意味だからだ。
 基本的に猫はしたいことをしたようにしかしない。それを踏まえた上で世界を改変する力を秘めたハルヒのそばにいる長門にキョンを配置したのは白烏だった。
 そう、ハルヒの目付け役の長門が、ハルヒに引きずられて暴走しないように、長門につけた魔族の目付け役が、キョンだ。
 そしてそのキョンの目付け役が、白烏自身だ。
 羽の上で惰眠を貪る黒猫を後で元の時間帯に放り込むのは勿論、白烏の仕事。
 ああ面倒くさい、と白烏は顔をしかめた。
 その程度のことは白烏にしてみればたいした手間でもないが、そういったポーズを取ることにしている。
 本来黒い色の烏の中で異端の白い烏。
 おまけに邪眼持ち。
 黒色を白色にするほどの、大きな、大きな力。
 魔族の中にあっても異端も異端。
 他の魔族と魔法使いたちに、白烏は己の人質としてキョンを差し出した。
 白烏がことのほかキョンに目をかけてやっているのは魔族の間では有名な話だ。
 闇の中よりキョンを引っ張り出したのは白烏自身だとも言われている。それが嘘か本当なのかはわからない。魔族の発生についてなど誰も語ったりしない。暗黙のルールというやつである。
 白烏は長門がハルヒの目付け役と道を外れた魔法使いたちの制裁者としての役を引き受けたように、人間との仲介・折衝役を引き受けた。世界を裏切らないという証に。
 互いが互いに誰かの制御装置として、張り巡らされたタグ――。
 世界とリンクしたタグの糸は、本物の糸のように鋏で簡単に断ち切れるものではない。
 それを白烏は人間で言うところの情という名の関係性だと知っている。
『人と関わるうちにどんどん人間臭くなっていきやがる』
 指輪を通して聞こえてきたキョンの声に、まったくだ、と内心で頷く。
 世界を裏切らないという約束。世界の均衡を守るという約束。
 ハルヒが本気で信じ込めば魔法というタグが存在しない世界に、世界が一瞬で改変される可能性がある。
 つまりそれは魔法だけでなく、魔法の塊である魔族の存在を消滅させる可能性を秘めている。
 そういう意味での危機感は、魔法使いたちよりも魔族のほうが強い。
 黒猫が羽の上でのん気に眠っている。
 これも消える。
 魔法が消えればキョンも消える。
 ハルヒの前では黒猫の姿なのだからその姿は残るだろうが、普通の猫はしゃべらない。ということは、キョンという自我はきっと消える。本当にただの猫になってしまう。
 白烏はそれが嫌だった。
 形が残っても中身が書き換わってしまっては意味がない。大事なのはスペースではなく書き込まれたタグなのだ。
 そういった関係性の糸が、世界を支えている。
 まったく人間臭くなったものだ、と白烏は苦く笑った。
 
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