略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2010.04.06,Tue
※注意※
この話はオフ本『Cat holic』に寄稿したファンタジー猫耳話『魔法使いの猫』と同じ世界観の話となっております。そのためこれだけ読んでも意味がわからない場合があります。(読んでいてもわからない可能性もあります…)
タイトルにあるとおり、あくまでボツネタです。お蔵入りにしようと思ってたんですが出しておきます。
彼を知るものであれば一度は思うであろう。
あのローブ素材は何であろうか、と――。
他聞に漏れず、古泉もその疑問に思ってはいた。
堅固な守りを誇るそれは、一見するとよくある厚手の綿であるように見えるし、繊細な絹のようにも見えたと思えば艶のある起毛素材にも見える。
とにかく見るたびに違うような、変わらないような、不可思議な材質に感じられた。
たとえば長門の周囲は常に一定の気温を保っているために快適だという。
そして彼はローブをまとっている限り、常に快適な気温環境を得られるらしい。
彼のローブはとても軽くて彼の動作の邪魔するものでなく、暑いときにはその熱を弾き、寒いときには冷気を遮断し発熱し保温するものであるという。
つまり――常に一定の何らかの魔法が発動している、とも取れる。
外付けの容量なのだろうが――どうにも彼に対しての外付け、という気がどうにもしないのが古泉の気にかかった。
上手く説明できない、と古泉は頭をひねる。
多分ローブが彼を包んでいるように、別の力が常に彼を包んでいる――ような気がするのだ。
聞いても回答は得られないだろうとわかっているので聞きはしないが。というかもう既にそれとなくローブのことについて聞いて上記以上の説明を得られなかったのだ。
猫の姿の彼が、長門の肩の上で――猫の彼は長門の肩上にいるときは羽毛一枚分ほどの重さもないように設定しているため長門は重さを感じていない――ふぁと欠伸をした。
そのすぐ後にあらぬ方向に視線を固定したかと思うと縦の瞳孔キュウと狭まるのが見て取れた。
つられて古泉がそちらに視線をやると、ふわり、と白い何かが忽然と現れたかと思うと小さな羽をばたつかせて、朝比奈の手の上に舞い降りる。
「鶴屋さんですか」
朝比奈の手の上に降り立った鳥は、紙で出来た白い鳥であった。
「はい。どうやら何かの兆しを感じて知らせにきてくれたようです」
鶴屋の折鶴――手紙である。
朝比奈がフッと小さく息を吹きつけると紙の鶴が喋り出す。
『やっほーみくる!元気にしてるかい!?私?私は勿論元気さ!』
「うふふふ、昨日も会ったばっかりなのに」
『まあまあ昨日だろうと今日だろうと明日だろうといいじゃないか!』
手紙であるが、応答可能である。
「それでどうかしたの?」
『伝えたいことがあって鶴を飛ばしたのさ!』
「うん。いつもありがとうね」
当然といえば当然の鶴屋の返事に、当然のようにこれまた朝比奈が当然の返事を返す。
これはもはや定型の会話である。しかしこれを終えない限りは次へ進まないため古泉たちは会話が進むのを待つ。鶴屋と会話する際には、この手順は外せない。たとえば定型の会話、それを踏まないと先へと進まない、というものが鶴屋の中に確固としてあるらしい。このおかしな融通の利かなさはどこか魔族や精霊に通じると古泉は感じていたが、しかし鶴屋は見た限りでは人間である。実際には人間であるとも人間以外のものであると聞いたことがないので、鶴屋の正体については古泉の中では今のところ保留となっている。
『いやいやたいしたことないっさー』
「何かあったの?」
『そうそうそれでだよ、もうすぐハルっちがそこに来るんだけど、あんまり宜しくない話題を携えてやってくるよ!その話は聞いちゃ駄目さ!私の山には禁域が多いのさ!穴掘りなんてしてもらっちゃあ困るのさ!ハルにゃんは結界とかあっても簡単に壊しちゃうっていうか、結界が無効だからね。今深部に踏み込まれると私が困るのさ!』
「――涼宮さんは鶴屋山に登りに行こうとしていると?」
うっかりと、古泉が口を挟む。
『やあやあ古泉君!今日も元気にハンサムだね!』
「ありがとうございます」
『そうそうそのとおり、いいかい、まあ多少踏み込むのはしょうがない。その程度なら私だって寛容だよ!でも深く入り込まれると困るのさ。精霊の領域には近づいてほしくないのさ。今はとにかく時期が悪い!山の裾野でも結構ぎりぎりなんさ』
「……ああ、もうそんな季節か」
ぼそりと呟かれた彼の声が耳元で聞こえる。
特にそれほど意識していないのだろうが、彼は猫の姿のときには空気を振動させて人型のときの声帯を模した音を発生させる。
猫に人のような声帯はない。よって人の言語を発音もできないからだ。
まぁ勿論そんなことをしなくても長門や鶴屋は彼が猫の声でも何と言っているのか正確に聞き取れるし、古泉も構えていれば意思疎通は可能だ。朝比奈自身では聞き取れないが常時彼女のそばにいる精霊たちとの親和性が高いため、特に何をしないでも伝わる。
『そうだよーそうなんだよキョン君。君にはそのローブがあるから大丈夫だろうけど、それでもいくらかは影響を受けかねないからね、近づいちゃ駄目だよ!君にもしものことがあったら白烏の君に私が怒られてしまう!』
「いや、あいつは面白がるだけですよ」
『ああうんそうだね!彼はきっと笑うね!でも近づいちゃ駄目さ。キョン君が影響受けなくても精霊たちは君たちの影響を受けてしまうよ。ついでにハルっちの存在は強烈さ!あんな熱量放出しっぱなしの光の塊みたいのが近づいてきたら消えてしまう子も出てしまうよ』
「わかりました。どうにかしましょう……古泉が」
「僕がですか?」
「ハルヒをその弁の立つ舌で煙に巻け」
言うなり、あふと大きな欠伸をする。
普段も眠そうだが――猫だから寝て当たり前だというのが彼の主張だが、古泉にしてみれば彼は猫である前に魔族であるというのが古泉の意見であるが口にしても意味のないことなので口にはしない――最近暖かくなってきていてますます眠いらしい。
『それじゃあよろしく頼んだよ!』
何かが遠のいた、と思うと、先ほどまで鳥の形をして喋っていた鶴が、カサリと小さな音を立てて勝手に解けると元の形であった正方形の一枚の紙となった。そして間を置かずに瞬間小さな炎をまとって燃え尽きた。鶴の形をしたまま燃やすのは可哀想で忍びないと昔朝比奈が訴えたため、折鶴はいつも解けてから燃え上がるのだ。別に燃焼させなくとも消失させることは可能なのだが――というよりもそもそも紙を消失させること自体にもたいした意味はない――『だってなんだかかっこいいじゃないか!』という鶴屋の意向で紙は毎回燃え尽きている。
「――それじゃあ俺は当分休眠モードに入ります」
彼は朝比奈と長門に向けて言うとまた欠伸をする。
「突然どういうことです?」
唐突な発言に、ちょっと待ってくださいと古泉が止めに入るのは当然である。
「聞いてたろ?俺がいるとまずいんだよ」
近づいちゃ駄目だよ、という鶴屋の発言のことだろう。
彼はどうやら魔族の中でも特別に魔法などの影響を受けやすいらしく、変に力が凝った場所などには近づきたがらない。自分が変質する、とはどんな感覚がするのだろう、と古泉は時折思う。人間とて力場にいれば影響を受けるが、どうも彼の様子からすると人間とは影響の受け方が違うのは確かだ。
「なぜですか?」
「陽の気が集まってくる時期に――光の渦中に小さな闇が入ったらどうなる」
「……消し飛びますね」
「よくできました」
つまり現在の鶴屋山には、彼を消し飛ばせるほどの光の塊がある、もしくは発生中ということだろうか。元々あの山には何があってもおかしくはないとは古泉も思っている。なんせ鶴屋の所有の山である。
つーわけで後はよろしく、と言うや彼の気配が一瞬で十分の一程度まで縮小されたのを感じた。
黒猫はそのまま長門の肩上に存在する。
しかし先ほどよりもずっと小さくなった気配に古泉は少し眉をしかめた。人間の認識は視覚に頼るところが大きいので現在の存在感と実際のキョンとのバランスに違和感を感じてしまうのだ。そして普段から極力気配を抑えている彼が、更に抑えられるということに驚いてもいた。普段が省エネモードで現在のレベルまで抑えると休眠モードと言ったところか。
「陽気が集まってくる季節ということは――」
「繁殖期」
「……なるほど」
長門の簡素な言葉に古泉は苦笑すると、さて代替案はどうしましょうか、と古泉は朝比奈を見た。
「天気がいいしお外でお食事とかしたら楽しそうですよね――」
おっとりと、朝比奈が発言すれば、長門が無言で頷く。
山に精霊たちが密集してきているというなら、原っぱもかなり危険ではあるが山中に入るよりはいくらかマシであろうと古泉も頷く。
それよりも手軽で確実な場所がある。
勿論それは――。
「本日のランチは中庭で取るというのはいかがでしょう?」
古泉が提案すると同時に涼宮が扉を開いた。
「中庭でパーティ?!さっすが古泉君!素敵だわ!早速用意しましょう!」
とりあえず今日の涼宮の気はそれた。
しかしまだ春の陽気は続く。
彼は当分能動的に動かないだろう。
なぜなら――。
陽の光を浴びて普段よりも朝比奈がキラキラと煌いている。
朝比奈は精霊と呼ばれる存在に異様に好かれる体質なため、常に一定の密度で彼女の周りを小さな精霊が取り囲んでいる。
そのため、彼は一定の距離より彼女に近づかないように心がけている。
朝比奈の周りに集まっている程度の精霊なら彼に影響があるわけがないのだが、朝比奈の周りの小さな精霊たちには彼の影響が及ぶためだ。
精霊も魔族も力の凝固の結果であるが、光と闇というくらい違う。絶対に相容れないというわけではなく相反するものではある。小さな精霊が魔族のそばに寄れば魔に染まるし、名と人格を持つレベルの精霊のそばに魔が寄れば消滅する。小さきものはそのように変化するが、力が強くなればなった分だけ反発が酷く、周囲にも影響が出る。だからいくらそれなりに力ある魔族といえども密集した――それも繁殖期と呼べるほど活性化した――精霊たちの只中に行けば何らかの影響を受けかねない。杞憂であっても忌避できるのなら忌避しておきたいといったところだろう。根本が力の濃縮したものでありながら、凝縮した力の質が違えば――濃度と密度が高まって属性を固定されてしまえば、それはやはり違うものなのである。
つまり精霊にとって大事な季節だから魔族の彼は下手に影響を与えないためにも、自分がうっかり影響を受けないためにも引っ込んだのだ。
勿論、あの特殊なローブがあるため、滅多なことでは影響が出たりしないのだが、彼は念には念を入れて気をつけているのを古泉は知っている。普段の省エネモードの理由も彼が面倒くさがりで魔法が好きでないことが理由であることは確かだが、朝比奈の周囲の精霊たちに配慮してのことであることもわかっている。彼はことのほか朝比奈が悲しむのを厭う。彼はどうも、光をまとう存在に弱い。古泉はその理由を知っている気がするのだが――それを深く考えないようにしている。……深く考えられないようにされているのだが、その事実を古泉は知らない。
こういうとき、やはり彼は魔族なのである、と古泉は実感する。
そしてあのローブがどれほどすごい代物なのかも実感する。それほど彼から気配は読み取れないのだ。
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