略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2010.04.11,Sun
※注意※
この話はオフ本『Cat holic』に寄稿したファンタジー猫耳話『魔法使いの猫』と同じ世界観の話となっております。そのためこれだけ読んでも意味がわからない場合があります。(読んでいてもわからない可能性もあります…)
「在り方がまず違うんだ」
中空に浮遊した状態の彼が言った。
どうしてそうしているのかははなはだ不明だが――多分たいした意味などないだろう。きっと彼のことだから浮かび上がっていたい気分だったからそうしているだけに過ぎない――ふわりと空間に浮き上がった状態のまま、首に巻いた水色のマフラーに顎を埋める。
「お前らは一直線の線を引いて、それを時間と呼び、その線上に点を打ち記憶と出来事を固定する。だからお前たちにとって記憶は蓄積されてゆくもので、過ぎ去った時間は過去として記憶となる。だが俺たちは一直線に伸びる時間軸の上には存在しない。勿論、俺たちにも記憶の蓄積があるわけだから、点を打つ。だが前後や左右はあまり重要視されない。点は空間全体に散らばって存在している。俺たちは立方体、お前らは平面で認識する」
勿論、マフラーの下にはローブをばっちり装着している。彼はローブをまとっている限り、常に快適な気温環境を得られるらしい。ローブは常に快適な環境を作るアイテムである。暑いのも寒いのも嫌いらしい彼が手放すはずがない。つまり、わざわざそこにマフラーを巻く意味は、防寒ではないということがわかる。
「時間の移動をしているということではないと?」
「時間軸を持つ人間と関わっているからな、俺にはその流れも知っているからお前らの言う時間を行ったり来たりしているという自覚はある」
「時間の流れを理解しなければ、あなた方のように時間移動をすることは可能だと?」
「人間と動物の決定的な違いを知っているか?」
「さて…話の流れからして、それは時間の認識でしょうか?」
「そうだ。動物は過去も未来も理解しない。あるのは今だけだ。今、っていう感覚もないだろうな」
「けれど動物だって学習をしますよね?」
「記憶の蓄積はある。しかもこれは、無意識下で繋がっている」
「本能に備わった記憶。天敵の認識などですね」
「人間に育てられれば犬や猫が餌を得るために芸を覚えるように、学習はする。だが、それが今日だったのか昨日だったのか一年前だったのか、あいつらは認識しない。あるのは、これをすれば餌をもらえる、という記憶だけ」
「けれど動物も人間も同じ時間軸の流れにいます。つまり年を取る」
「人間や動物や植物が時間という流れを支えている限り、俺たちにも時間軸の流れの影響を受ける。俺たちも数を数える。“時間”を認識した時点で、俺たちも時間の影響下に置かれる。だから俺たちにも時間は存在する。ただ、お前らは紙を重ねるように記憶を積んで過去と名づけ、点を線で結んでいるから順番――時系列があるが、俺たちは空間に浮かんでいて、そこに浮かぶ点の増減を意識しない。勿論、人間の時間の流れに照らし合わせて順序よく並べることもできるが」
「……やはりわかりにくいですね。いえ、とても参考になりましたが」
語られていることは理解できるが、それを自分に置き換えることは難しい。古泉にとって昨日は昨日だし、それよりずっと昔はそれよりずっと昔である。古い記憶も新しい記憶も認識上同じ位置にあるものではない。そして人間には忘却機能が備わっているし、記憶は劣化するものだ。昨日の出来事ことよりも何年も前の出来事のほうが鮮やかということは、ない。――つまり、それがない、ということか。
「お前らは時間軸っていう一本の流れから外れることができないために、時間を移動するにはその身体ごと持っていって体内の時間軸――記憶を順序立てて覚える必要があるが、しかし俺たちは肉体が動いているのか意識だけが動いているのかはたいして重要じゃないから、俺たちにも実はよくわかっていないっていうのが本音だがな」
ということは、彼らは老いの認識が人間や動物と違うために、過去未来現在関係なく、脳内の意識だけが行き来をしている可能性もあるということなのだろうか?物理的な空間の捩れがない分、時間移動が容易い、と。
そういえば、彼らに年を取るという概念はないのかもしれない。それはつまり肉体的老化がないということ、時間の積み重ねが人間とは異なっているということ。
やはり人間に彼らを理解するのは難儀である、と古泉は思考を巡らせるに留めた。
わかったことはただ一つ、彼らはやはり人間とは違う、ということだけだ。
何の労力も使っていない気軽さで、彼の足は空中から浮いている。対して古泉の足は地面にしっかりと張り付いている。
風もないのにふわふわと、彼の水色のマフラーが揺れる。
もしかするとあれは、何かしらの布石なのかもしれないと思ったが、それがわかるのはきっとずっと先の未来なのだろう、と古泉は揺れるマフラーを見た。
いや、もしかしたらずっと過去のことなのかもしれない。そうだとしたら、自分は一生このマフラーについて知ることはないのだろう、と古泉はゆっくり水色から目を逸らす。
古泉が目を逸らした後も、水色のマフラーはふわふわと揺れていた。
・・・・・・・・・・
(大丈夫よ、古泉君。私にもマフラーの謎の答えはわからないから。つまり続かない。映画の影響の一端ってやつです。特に意味はありませんとも)
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