泣いているのか、と思ったのはただの直感でしかなかったのだが。
理由どころか、なにがあったかもわからないまま、そう思った瞬間俺は動けなくなっていた。
「すみません、肩を少しだけ、お貸りしてもよろしいでしょうか?」
言うだけ言って、俺が何か返事を返す前に古泉が背後から俺の二の腕を掴んだ。
いつもだったらあり得ない古泉の言動、行動に俺が当惑している間に勝手に右肩に預けられた頭の重さを感じた。
俺が振り向けないように二の腕を掴まれている、と気づいて少し腹が立った俺は古泉の手をふりほどこうとして、けれど振り向くこともできずに動けなくなった。
一瞬、肩の辺りがひやりとした気がしたのだ。
右肩の、丁度古泉と俺の肩が触れ合っているあたりに。
驚いた。
思わず神経を集中させてしまうほどに。
するとまた冷たい感覚が右肩のシャツに静かに染み込んできた。
泣いている、のか?
混乱する。
古泉が?
どうして。
混乱して動けないまま、けれど脳の片隅で静かに思った。
なんて泣き方をするんだ。
古泉は息をしていることすら罪悪かのように、声を殺していた。
浅く息を飲み込む呼吸音が古泉が泣くのを堪えてけれど堪えきれずに嗚咽を噛み締めていることを俺に教える。
泣き喚いて、八当たりでもしてくれれば対処のしようもあったのに。
耳のすぐそばで、ギリ、と歯を食いしばる音がした。
それに比例するように冷たく重くなるシャツ。
泣いているときすら自分に我慢を強いる古泉を哀れに思った。
泣きたいなら好きに泣けばいいんだ。
それが自分の肩の上だろうと我慢してやる。
それくらいの甲斐性なら俺だって持ち合わせているつもりだ。
だが俺が少しでも心配したりすれば、きっと古泉は何もなかったように手を放して顔を上げて笑いかけてくるんだろう。
その下に何を抱え込んでいても。
目の縁を赤く染めて、それでも何にもなかった顔して笑うんだろう。
そんな顔は見たくない。
だから俺は身動ぎもできず、ただただ阿呆みたく立ち尽くす。
ぼんやり、前だけを眺めていた。
視界の隅を掠める古泉の髪の色なんて、俺の目には映っていない。
気づいていないでいろ。忘れろ。古泉が顔を上げ、振り向いた俺と目があったときに平静を保つために。
浅かった呼吸音はいつの間にか乱れた呼吸を整える少し深めの呼吸音に変わっていた。
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