「俺が思うに、これは吊り橋効果なんじゃないか?」
「吊り橋効果ですか」
「そうだ」
「高所の吊り橋を渡る際の緊張感を恋心と誤認して男女が恋に落ちるというあれですか」
「そのあれだ。別に恋に限定しなくても、一種の困難を共有することによって変な連帯感が生まれるあれだ」
まさにSOS団なる奇怪な集まりがそれだろう。
「ではあなたは僕らがいわゆるストックホルム症候群である、と」
犯罪被害者が犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、犯人に過度の同情や好意などの特別な依存感情を抱くのと同じ心理を共有している、と。
「わざわざわかりづらく言い直さんでもいい。とにかく、そういうことだ。でなければこんな事態になっている説明がつかん」
「そうですねぇ、確かに僕らはいくつもの困難やスペクタクルを共有してきました」
「無理やりに、な。半強制的と言ってもいい」
「最終的にはご自分で決断されたことなのに、それを他人のせいにするのは感心しませんよ?」
「ハルヒのせいにしてるわけじゃねえよ。だが、こうも不測の事態ばっかり発生しちまうと、な…。思わず愚痴の一つも言いたくなるのが人情ってもんだろう。俺が誰より平穏平凡を愛して止まないことくらいお前だって知ってるだろうが」
「そうですね、でも僕はあなたが好奇心に弱く、目の前に現れた面白そうなことに思わず愛する平穏平凡を忘れて走り出してしまうことも知っていますよ」
「……好奇心は猫を殺すって、名言だよなぁ」
「ええ、まったく」
「ほんと、なんでこんなことになってんだか…」
「ええ、まったく」
古泉は俺の顔を見下ろしながら、そして俺は笑顔が基本のこいつにしては珍しい真面目な顔で頷くのを見上げていた。ニキビ一つない白い顔。すっと通った鼻梁。こいつほんとに睫毛が長いな。量は普通なんだと思うが、長さが普通の人の一、五倍って感じだ。他にできそうなことがなかったせいで、うっかり男の顔なんぞを観察してしまった。
俺の両手は古泉の両手でどういうわけだがベッドに押さえられており、四つん這い状態の古泉が上に覆い被さるようにしているために身体を起こすことすらままならん。
ほんと、なんだってこんな事態になってんだか、俺にはさっぱりわからんね。
「でも、理由なんてどうでもいいじゃないですか」
僕らが吊り橋の上にいようとも、生存率を高めるための妄想だろうとも、辿り着く先が同じならば過程なんて些細なことですよ。
「……そういうもんかね?」
理由は大事だと思うがね。
「では僕が理由を与えて差し上げましょうか」
「お前のこじつけた理由付けなんていらんわ」
「ではこじつけでないものを」
「聞いてほしいのか」
「ええ、ぜひ」
「……まぁ、言うのは自由だからな。聞いてやらんこともない」
言いたいなら言え。
俺の指一本一本を縫い付けるように絡んだ古泉の指に、微かに力が加わるのを感じた。
「僕はあなたが、」
すまんがこれ以上は禁則事項だ。
俺の耳にだけ届けばいいことだからな、古泉がなんと言ったのかは俺が墓場まで持って行かせてもらう。
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