「人間は完全なものは愛さないものですよ」
「どうしてだ?」
不完全では安心感が得られない。いつ崩壊するのかと落ち着かないことだろう。
その点、完全なものだけが持ちうる安定感は信頼に値する。
完全であり、完璧であるほうが当然いいだろうと俺は単純に思ったが、古泉はそうではないらしく、
「そこには余地がないからですよ。入り込む隙間もなく、愛を注ぐまでもなく満たされている相手なら他者なんて不要でしょう?きっとそこには虚しさや退屈さや、あとは憤りくらいしか生まれないでしょう」
水がなみなみと満ちた杯に、更に水を注げば零れるばかりです。愛を与えようとして受け入れられなかったその衝撃は、一体如何ほどのものでしょうね。きっと哀しい。虚しい。呆れ果て、そしてやり場のない憤りに精神を掻き毟られることとなるでしょう。だから、誰もが完全なものを本気で愛したりしないのです。
「僕は不完全なものを愛しいと感じます」
そこにはもしかしたら僕を受け入れてくれるだけの隙間があるのではないかと思えるから。
そう言って古泉が小さく声を立てて笑った。
「これはあくまで主観的な、不完全な僕の負け惜しみみたいなものですが」
そして笑みを引っ込めた切れ長な目が俺を見て、古泉は「あなたもご存じかと思いますが」と吐息のように声を落とし、
「僕の神も不完全なんです」
神同然の力を持ちながら、彼女はどこまでもさみしい一人の女の子なのです。
彼女を慈しみ愛してあげてください、と古泉は薄く唇を引き上げ微笑を浮かべた。
俺は是とも否とも答えなかった。
古泉もそれ以上は何も言わなかった。
古泉は時折自分とハルヒとの境界を――わざなのか無意識なのかは俺には判別つかない――ぼんやりと滲ませる。
ぼやかし溶け込ませられた境界は曖昧だ。
軽い眩暈にも似た不可解な感覚を与えられて、俺は混乱する。
古泉とハルヒは天秤の受け皿に一緒に乗っているのか、それとも左右それぞれの受け皿に乗っているのか。それすらわからない。
だが古泉とハルヒは多分どこかでまるでシャム双生児のように身体の一部が癒着しているのではないかと思う。
不完全なハルヒ。
不完全な古泉。
さみしいのはハルヒ。
さみしいのは古泉。
引きずり、引きずられるようにして、その影響下からは逃れられない。
なあ、古泉。
俺の耳にはお前こそが、俺に慈しまれ愛されたいと言ったように聞こえてしまったんだが。
だが、これはきっと、気のせいなんだろう。
気のせいであることが望ましいんだろう。
ハルヒのバイオリズムの影響下にある古泉は、きっと自分の思考も感情も信じていない。
さみしいのはハルヒ。
さみしいのは古泉。
さみしいのは、
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