クジラになって浜辺に打ち上げられる夢を見た。
ぼろぼろの鰭、傷だらけの身体を横たえ白い腹を晒して、じわじわと肉が崩れていく。赤い血が黒い泥のよう。砂に染み入ることもできず異臭を放つ。目を逸らさずその死を見届けてほしいと思う。誰に、とは口に出すことは絶対にできないけれど。
ベッドに仰向けになったまま、額に張り付いた前髪を掻き揚げる。
額に浮いた嫌な汗が手に触れて、僕は顔をしかめた。
身体がだるい。
まとわり付く汗が気持ち悪い。
夢見が悪かった、としか言いようがないだろう。
引き金なんてきっと些細なこと。けれどその僅かな力で想像の範疇を越える事態を呆気なく引き起こす。津波のように襲いかかる感情の洪水。ほんの僅かな綻び、一瞬の気の迷い。始まってしまった雪崩れは止められるはずもない。もう崩れるところまで崩れるだけだ。
愚かだ。思考を捏ね繰り回したところで、何も変わらない。変えられないのに。
けれど僕はもうどうしようもなく愚かで馬鹿になっていた。夢にまで見てしまうほどに。
僕は待っていた。
どうしようもなく待っていた。
ここから抜け出したいと、息がしたいと、僕は誰かが助けてくれるのを待っていた。
僕は、僕だったから選ばれたわけじゃない。
憧れたヒーローにはなれなかった。
なのに待っていた。
今だって、昔憧れたヒーローような存在が僕を助けてくれるのを待っていた。
そのくせ何も言わない。言えないで、ただ待っているだけだ。助けての一言どころか、手を伸ばすことすら、僕にはできない。口にしたら、手を伸ばしたら傷つくのがわかっていたからだ。拒絶されたら生きていけない。だから黙っている。不用意に動いて触れ合ったりしまわないようにじっと息を詰めている。それを弱さと呼ぶのなら僕は確かに弱いのだろう。
海にかえりたい、と思った。
どうせ死ぬなら打ち上げられた砂浜で腐るよりも海の底がいい。
そして多くの魚に啄ばまれていつか大きな骨も砕けて砂の一粒になりたい。
海水の一滴に混じりたい。
そして蒸発して空に昇りいつか雨となるんだ。
雨は空気中の水蒸気が雲の中で冷えて引っ付き合って、自分の重さに耐えられずに落ちてくる。
まるで僕のことのようだ。抑えきれず溢れた感情は、手の届かない雲に焦がれて、けれど届かないことに傷つき冷えて、そして堪らず落下していく。
それなのにまた空へ昇っていく。
愚かだ。
でも愚かでいい。
海にかえりたい。
海水の一滴に混じりたい。
そして蒸発して空に昇り雨となって、
彼の手が持つ傘を叩く一粒に、
僕の中から零れ落ちた海水の一滴は、どこにも昇れずパジャマの裾に染みて消えた。
Powered by "Samurai Factory"
