略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2008.06.15,Sun
シャリシャリとささやかな音が聞こえた。
ぼんやりと音のするほうへ視線を巡らせると、林檎を剥く手が見えた。
「…………何してんだ」
古泉は俺の視線に気づいて「お目覚めですか」と微笑む。
「何、と言われましても。林檎を剥いていたところですよ、としかお答えできかねますが」
お見舞いと言ったらやはり林檎でしょう。
古泉は剥きかけの林檎とナイフをベッド脇のテーブルに置かれた皿の上に置いて、布巾で手に付いた果汁を拭うとその手を俺のほうへと伸ばした。
汗で額に張り付いた前髪を掻き分けて、古泉の手のひらが俺の額に合わさる。
「まだ少し、熱がありますね」
額に触れた古泉の手は冷たかった。
「……だるい」
ひやりとした感触が額に心地いい。
「我慢してください。幸い初期治療のおかげで咳のほうは酷くならずに済みましたし、熱も朝比奈さんが処方してくださった薬が効いてピークは過ぎたと思いますから、あともう少しの辛抱ですよ」
そういえば、
「お前仕事は……」
どうした、と聞こうとしたのだが、俺は言葉を途中までしか続けられず、また俺の言葉に古泉が何か返したとしてもそれより先に勝手に降りてきた瞼によって視界は塞がり、古泉の手の冷たい感触を感じたまま、俺の意識はまた眠りへと引き戻されていった。
再び目を覚ますと、そこには誰もいなかった。
そばに置かれた椅子には誰も座っていない。
ベッド脇のテーブルには八等分の櫛型に切られた林檎と水差しと小さな錠剤がいくつか。
そして林檎の乗った皿を重しにひっそりと置かれた紙片。
ぺらいそれを寝たまま腕だけ伸ばして引っ張った。
四つ折にされたそれを広げると乱暴な手書きの字が視界に飛び込んでくる。
――目が覚めたら薬を飲んでください。空腹で飲むと胃に悪いので先に何か食べるのを忘れずに。
「…………きったねぇ字」
俺は寝起きのせいで嗄れた声で紙切れに書かれた文字に悪態をついてから、重くてだるい身体を起こすと酸化して表面が少し茶色くなった林檎を手で摘んで一口齧った。
残りの果肉も口の中に押し込んで奥歯で噛んで砕くと温い林檎の甘味がじわりと口の中いっぱいに広がる。
さっきいたくせに次いなかったらがっかりするじゃねぇか、バカ泉め。
枕の脇に投げ出していた、有事に備えていつでもそばに置いている携帯端末を手に取るとボタンをいくつか押した。
どうせだからエマージェンシーモードで呼び出してやる。
――PS:何かあったらすぐに呼んでください。すぐに行きます。
じゃあ今すぐ来いよ。
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