略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2008.06.25,Wed
「おう」
色違いのエプロンをつけた俺と古泉がキッチンの前に立っている。
「材料は卵、牛乳、砂糖とバニラビーンズかバニラエッセンスだけ。バニラビーンズを使用すると黒い粒々が入って本格的に見えますよ。使用する器具はボウルと泡立て器と計量カップと計りと目の細かいザルと大きめの鍋と蒸し器。それからプリンを入れる容器です。では、材料計りますからそこのメモ帳とペン取ってくださいますか?」
「おう」
メモ帳とペン差し出しながら、俺はそのときになって「おや?」と首を傾げた。
「何に使うんだ?」
「これですか?計算するんですよ」
計算?なんでだ?
「料理は科学だからです。失敗したくなければきちっと計りましょう!」
古泉、カメラ目線でにこっ。
「お菓子作りの失敗の最大の原因は分量をきちん量らなかったり調理する際の温度や時間を守らないことにあることが多いのです。だから目分量とか己の勘を頼るのはやめておきましょう」
「なるほど」
「さて分量ですが、卵1に対し牛乳は2。砂糖は卵と牛乳を足した量の20パーセントです」
「は?」
古泉は盛大にクエッションマークを飛ばした俺のためにメモ帳にわかりやすく対比の数字を書き出す。
ああだからメモ帳とペンなんだな。
卵:牛乳 1:2
砂糖は卵+牛乳の20%
「なんだこりゃ?」
「わかりにくいですか?では、今回の分量で説明しましょうか。今回は卵10個使用したいと思います。事前に量っておいたところ、この卵1個はだいたい50グラムです。すると10個で500グラム。そうしましたら牛乳は1000グラムになりますね。だから牛乳パック1本。卵と牛乳を合わせて1500グラムの20パーセントですから砂糖は300グラムとなります。砂糖の量は好みに合わせて多少増減しても問題はありませんね。ご自分のお好みに合わせて砂糖の量は調節してください」
今さっき分量はきっちり量れと言った口で好みに合わせて調節しろとはアバウトだな。
「まぁ、確かにあんまり増やしたり大幅に減らしたりするのはお勧めできませんね。増減しすぎると味が変わりすぎてしまいますし。だから増減は多少、ですよ。最初は分量どおりに作ってみて、そのあと好み合わせて増減することをお勧めします」
卵:牛乳 1:2 500g:1000g
(500+1000=)1500×0.2=300g
冷蔵庫を開けて牛乳を取り出し1リットルの牛乳パックを俺の手に渡した古泉が「あ」声を上げる。
「そうそうカラメルを作るときに使う砂糖は分量外です。20パーセントから引いちゃだめですよ?」
言いながらてきぱきと卵を10個取り出して、計りを取り出すと砂糖を計る。
「牛乳を鍋に入れて火にかけてもらえますか。火加減は弱火。牛乳と分量分の半分の砂糖を入れて混ぜながら少し温めてください」
「わかった」
俺は慌てて出しておいた鍋に牛乳を空け、砂糖を入れると、コンロの火を点けた。ヘラを手に取りぐるぐると鍋の中身を混ぜる。
「牛乳は絶対に煮立たせないでくださいね」
「おう」
「牛乳の一部を生クリームに置き換えても滑らかになって美味しいですよ。でも生クリームは鍋に入れて温めないで最後に入れて合わせるといいです。さて、僕はボウルの中に卵を割り入れて残りの半分の砂糖と混ぜます。よく混ぜます」
よーく混ぜます、とジャカジャカジャカと泡立て器でかき混ぜる古泉。実に手馴れてて滑らかだ。手首のスナップがよく効いているぜ。
「はい、適当に混ぜたところでここに温めた牛乳を入れてまた混ぜます」
俺はコンロの火を止め、温めていた牛乳の入った鍋の中身をボウルの中に移す。
「ゆっくり入れてください」
「おう」
「多少溶け切れていない砂糖があってザリザリしてても蒸したらきちんと溶けますので心配はいりません」
「ああ、砂糖を溶かすために牛乳を温めるって意味もあるんだな?」
鍋を傾けてゆっくりと牛乳をボウルへ流し入れると、古泉がボウルの中身を泡立て器で混ぜ合わせる。
「正解です。でも温めすぎは絶対だめですから注意してくださいね。この辺でバニラエッセンスを入れましょうか。バニラビーンズなら牛乳を温めているときに一緒に入れて香りを移しておくといいと思います。あ、大事なことを言い忘れるところでした」
「なんだよ?」
「牛乳と卵を混ぜるとき泡立てないように静かに混ぜてください」
「そういう大事なことはもっと早く言え!」
「すみません」
しゃべりながらも静かに混ぜ合わせた古泉は、ボウルの中身が混ざったところで泡立て器を置いた。
「次は卵と砂糖と牛乳を混ぜた液を目の細かいザルで濾していきます。ボウルから牛乳を温めていた鍋にでも移し変えれば洗うものが少しだけ減ります。ザルを支えてもらえますか?」
「わかった。押さえときゃいいんだな?」
「零れないよう支えてください。静かに入れていきます。混ざりきれていない卵がここで残るのでそれをへらで濾します。ザルで濾すから適当に混ぜてても最終的にはきちんと混ざるので、とっても簡単です」
「なるほどな」
「これでプリン液完成です!次はカラメル作りですよ。この辺りで蒸し器を火にかけておくといいでしょう。蒸し器が充分に温まるには時間がかかるんです。水を蒸し器に入れて火にかけてもらえますか」
「水はどれくらいだ?」
「ぎりぎりいっぱい入れてくれて大丈夫ですよ。途中で空焚きになってしまうほうが怖いので、水はたっぷりと」
「了解」
蒸し器の一番下の鍋に水をたっぷりと入れてコンロの火にかける。
「それではカラメル作りです。適当な量の砂糖と少量の水をフライパンに入れて熱します。このときの火加減は弱火のほうがいいです。砂糖は焦げ出すと早いから。溶け始めてぶつぶつと泡が立ち始めて色がカラメル色になったらまた水をほんの少し入れてフライパンを火から下ろします。この水の加減は難しいんですけど、水っぽくなりすぎたら砂糖を足して煮詰め、水あめっぽい固さだったら水を入れれば問題ありません。気持ち焦がすくらいのほうが香ばしさが出て僕は好きですね」
「あ、俺も」
「焦げるギリギリ、美味しいですよね」
「ああ、あのちょっと苦いのがたまらないよな」
「でも本当に焦がしちゃうと苦いですし、何よりとても危険なので、このとき絶対にフライパンから目を離したら駄目ですよ」
「お前もカメラ目線してないでフライパン見ろよ」
「冷えると固まるので、熱いうちに容器に入れます」
フライパンの中の砂糖をヘラで混ぜていた古泉は、砂糖が溶けて薄茶色になったところでフライパンを火から下ろし、ヘラをスプーンに持ち替えると出来上がったカラメルをスプーンですくい素早くプラスチックのプリンカップに少量ずつ入れていく。
「蒸し器を使うのでプリンの容器はプラスチックで大丈夫ですよ」
「これだと人にお裾分けするときにも便利だな」
「そうですね。はい、カラメル終わりです。次はカラメル入れた容器にプリン液を注いでいきます。カラメルは容器の底に均一に広がってなくても大丈夫ですからね。蒸し器で蒸したときに自然と溶けて綺麗に広がりますので」
古泉はてきぱきとおたまですくった液体をカップへ入れていく。
「蒸し器は蒸気が充分出ているところに入れるのが鉄則です。温まり切れていないところに入れないように注意してください。そして蒸し器の温度が下がらないように手早く!」
古泉は蒸気が鍋の蓋に付いた小さな穴から勢いよく噴出しているのを確認し、プリン液の入った容器を手早く蒸し器の中に並べていく。
「蒸気でも火傷しますから、入れるときは気をつけてくださいね!」
「古泉、時間はどれくらいだ?」
俺はタイマーを手に持った。セットする準備万端だ。
「最初に強火で2、3分。そのあと弱火にして12分くらいです。時間は蒸し器のサイズにもよるのでサイズによってちょこっとずつ調整してください。何回かに分けて蒸していくと蒸し器の温度がどんどん上がってしまうのでこの場合も火加減と時間を調節してください。でも蓋を頻繁に開けるのはNGですよ」
「だめなのか?」
「頻繁に蓋を開けると蒸気が逃げてしまいますから。あと蒸しすぎたり蓋をぴっちり閉めちゃうと“ス”が入っちゃうんで、それも注意事項ですね。蓋はほんの少しずらして斜めにしておいくか、濡れ布巾を挟んで蒸気がこもりすぎないよう外に逃がすんです。そうすると蒸し器の中の温度が一定に保たれて失敗がないです」
「“す”ってなんだ?」
「プリンの中に空気の泡が入ることを“ス”が入るって言うんですよ。いかにも手作りって感じで僕は嫌いじゃないですけどね。でも入っていないほうが見た目が綺麗です。舌触りも滑らかになります」
「味は変わるのか?」
「変わらないから安心してください」
古泉が俺に向かってにこっと笑いかける。
「ちなみに大きく作りたいならオーブンが便利です。平たい耐熱容器に流し入れてお湯を張った鉄板に乗せ160~170℃くらいで30~40分くらいでしょうか。プリン液の高さが厚めだと蒸しあがるのに時間がかかるので時間はこれより長めにしたほうが無難でしょうか。バケツプリンとか、僕も一度作ってみたいものですが、やはり家庭用のオーブンでは難しいですね。バケツがオーブンに入りきりません…。鉄板にお湯を絶対に張ってください。でないと必ず失敗です。生焼けで食べられません」
「プリンも生焼けになるのか」
「なりますよ。半生ですから食べたらお腹壊します。お湯を張っておかないと内側まで均一に火が通らないんです。あとオーブンを使うときはプラスチックの容器は使用不可です。必ず耐熱容器など高温で使える容器を使ってください」
十五分後。
ピピピピピ…!
「おい、古泉!」
俺は音を発しているタイマーを高く掲げて早く早くと古泉を急かす。
「はい、ちょっと待ってください」
蒸し器の蓋を取ると蒸気が立ち上る。
耐え切れず蒸し器の中を覗くと、
「これは…!」
出来立てのプリンは思わず身を乗り出して覗き込んでしまうほど美味そうな色と甘い匂いを発していた。
「熱いからもう少し待ってください」
古泉が竹串を一本取り出してプリンに刺した。
「何してんだ?」
「きちんと中まで火が通っているか確認しているんですよ」
古泉はプリンに突き刺した竹串を引き抜き、串の先を確認している。
「竹串に何も付いてこなければ蒸し上がりです」
「完成か?」
「完成です」
そんなに顔を近づけていると火傷しますよ、と湯気の立つプリンを前に涎を垂らしそうな勢いで張り付いてしまった俺に苦笑しつつ、綺麗に蒸しあがったプリンの姿に古泉もにこにこである。
「上出来ですね」
あとで涼宮さんたちにおすそ分けを持っていきましょう、と古泉は微笑み、蒸し器からプリンを取り出ていく。
それから少し温度が下がって持てるようになった温かいプリンを一つ手に取ると、それを俺の手に乗せた。
「作り手の特権ですよ」
スプーンを持ち上げてウィンクした古泉のことはほっといて、その手からスプーンを奪い取る。
古泉作の出来立ての温かいプリンは、素朴でどこか懐かしい味で、それはもう筆舌し難いほど美味かった。
(我が家のプリンの作り方そのままです。なのでかなりアバウトです。)
色違いのエプロンをつけた俺と古泉がキッチンの前に立っている。
「材料は卵、牛乳、砂糖とバニラビーンズかバニラエッセンスだけ。バニラビーンズを使用すると黒い粒々が入って本格的に見えますよ。使用する器具はボウルと泡立て器と計量カップと計りと目の細かいザルと大きめの鍋と蒸し器。それからプリンを入れる容器です。では、材料計りますからそこのメモ帳とペン取ってくださいますか?」
「おう」
メモ帳とペン差し出しながら、俺はそのときになって「おや?」と首を傾げた。
「何に使うんだ?」
「これですか?計算するんですよ」
計算?なんでだ?
「料理は科学だからです。失敗したくなければきちっと計りましょう!」
古泉、カメラ目線でにこっ。
「お菓子作りの失敗の最大の原因は分量をきちん量らなかったり調理する際の温度や時間を守らないことにあることが多いのです。だから目分量とか己の勘を頼るのはやめておきましょう」
「なるほど」
「さて分量ですが、卵1に対し牛乳は2。砂糖は卵と牛乳を足した量の20パーセントです」
「は?」
古泉は盛大にクエッションマークを飛ばした俺のためにメモ帳にわかりやすく対比の数字を書き出す。
ああだからメモ帳とペンなんだな。
卵:牛乳 1:2
砂糖は卵+牛乳の20%
「なんだこりゃ?」
「わかりにくいですか?では、今回の分量で説明しましょうか。今回は卵10個使用したいと思います。事前に量っておいたところ、この卵1個はだいたい50グラムです。すると10個で500グラム。そうしましたら牛乳は1000グラムになりますね。だから牛乳パック1本。卵と牛乳を合わせて1500グラムの20パーセントですから砂糖は300グラムとなります。砂糖の量は好みに合わせて多少増減しても問題はありませんね。ご自分のお好みに合わせて砂糖の量は調節してください」
今さっき分量はきっちり量れと言った口で好みに合わせて調節しろとはアバウトだな。
「まぁ、確かにあんまり増やしたり大幅に減らしたりするのはお勧めできませんね。増減しすぎると味が変わりすぎてしまいますし。だから増減は多少、ですよ。最初は分量どおりに作ってみて、そのあと好み合わせて増減することをお勧めします」
卵:牛乳 1:2 500g:1000g
(500+1000=)1500×0.2=300g
冷蔵庫を開けて牛乳を取り出し1リットルの牛乳パックを俺の手に渡した古泉が「あ」声を上げる。
「そうそうカラメルを作るときに使う砂糖は分量外です。20パーセントから引いちゃだめですよ?」
言いながらてきぱきと卵を10個取り出して、計りを取り出すと砂糖を計る。
「牛乳を鍋に入れて火にかけてもらえますか。火加減は弱火。牛乳と分量分の半分の砂糖を入れて混ぜながら少し温めてください」
「わかった」
俺は慌てて出しておいた鍋に牛乳を空け、砂糖を入れると、コンロの火を点けた。ヘラを手に取りぐるぐると鍋の中身を混ぜる。
「牛乳は絶対に煮立たせないでくださいね」
「おう」
「牛乳の一部を生クリームに置き換えても滑らかになって美味しいですよ。でも生クリームは鍋に入れて温めないで最後に入れて合わせるといいです。さて、僕はボウルの中に卵を割り入れて残りの半分の砂糖と混ぜます。よく混ぜます」
よーく混ぜます、とジャカジャカジャカと泡立て器でかき混ぜる古泉。実に手馴れてて滑らかだ。手首のスナップがよく効いているぜ。
「はい、適当に混ぜたところでここに温めた牛乳を入れてまた混ぜます」
俺はコンロの火を止め、温めていた牛乳の入った鍋の中身をボウルの中に移す。
「ゆっくり入れてください」
「おう」
「多少溶け切れていない砂糖があってザリザリしてても蒸したらきちんと溶けますので心配はいりません」
「ああ、砂糖を溶かすために牛乳を温めるって意味もあるんだな?」
鍋を傾けてゆっくりと牛乳をボウルへ流し入れると、古泉がボウルの中身を泡立て器で混ぜ合わせる。
「正解です。でも温めすぎは絶対だめですから注意してくださいね。この辺でバニラエッセンスを入れましょうか。バニラビーンズなら牛乳を温めているときに一緒に入れて香りを移しておくといいと思います。あ、大事なことを言い忘れるところでした」
「なんだよ?」
「牛乳と卵を混ぜるとき泡立てないように静かに混ぜてください」
「そういう大事なことはもっと早く言え!」
「すみません」
しゃべりながらも静かに混ぜ合わせた古泉は、ボウルの中身が混ざったところで泡立て器を置いた。
「次は卵と砂糖と牛乳を混ぜた液を目の細かいザルで濾していきます。ボウルから牛乳を温めていた鍋にでも移し変えれば洗うものが少しだけ減ります。ザルを支えてもらえますか?」
「わかった。押さえときゃいいんだな?」
「零れないよう支えてください。静かに入れていきます。混ざりきれていない卵がここで残るのでそれをへらで濾します。ザルで濾すから適当に混ぜてても最終的にはきちんと混ざるので、とっても簡単です」
「なるほどな」
「これでプリン液完成です!次はカラメル作りですよ。この辺りで蒸し器を火にかけておくといいでしょう。蒸し器が充分に温まるには時間がかかるんです。水を蒸し器に入れて火にかけてもらえますか」
「水はどれくらいだ?」
「ぎりぎりいっぱい入れてくれて大丈夫ですよ。途中で空焚きになってしまうほうが怖いので、水はたっぷりと」
「了解」
蒸し器の一番下の鍋に水をたっぷりと入れてコンロの火にかける。
「それではカラメル作りです。適当な量の砂糖と少量の水をフライパンに入れて熱します。このときの火加減は弱火のほうがいいです。砂糖は焦げ出すと早いから。溶け始めてぶつぶつと泡が立ち始めて色がカラメル色になったらまた水をほんの少し入れてフライパンを火から下ろします。この水の加減は難しいんですけど、水っぽくなりすぎたら砂糖を足して煮詰め、水あめっぽい固さだったら水を入れれば問題ありません。気持ち焦がすくらいのほうが香ばしさが出て僕は好きですね」
「あ、俺も」
「焦げるギリギリ、美味しいですよね」
「ああ、あのちょっと苦いのがたまらないよな」
「でも本当に焦がしちゃうと苦いですし、何よりとても危険なので、このとき絶対にフライパンから目を離したら駄目ですよ」
「お前もカメラ目線してないでフライパン見ろよ」
「冷えると固まるので、熱いうちに容器に入れます」
フライパンの中の砂糖をヘラで混ぜていた古泉は、砂糖が溶けて薄茶色になったところでフライパンを火から下ろし、ヘラをスプーンに持ち替えると出来上がったカラメルをスプーンですくい素早くプラスチックのプリンカップに少量ずつ入れていく。
「蒸し器を使うのでプリンの容器はプラスチックで大丈夫ですよ」
「これだと人にお裾分けするときにも便利だな」
「そうですね。はい、カラメル終わりです。次はカラメル入れた容器にプリン液を注いでいきます。カラメルは容器の底に均一に広がってなくても大丈夫ですからね。蒸し器で蒸したときに自然と溶けて綺麗に広がりますので」
古泉はてきぱきとおたまですくった液体をカップへ入れていく。
「蒸し器は蒸気が充分出ているところに入れるのが鉄則です。温まり切れていないところに入れないように注意してください。そして蒸し器の温度が下がらないように手早く!」
古泉は蒸気が鍋の蓋に付いた小さな穴から勢いよく噴出しているのを確認し、プリン液の入った容器を手早く蒸し器の中に並べていく。
「蒸気でも火傷しますから、入れるときは気をつけてくださいね!」
「古泉、時間はどれくらいだ?」
俺はタイマーを手に持った。セットする準備万端だ。
「最初に強火で2、3分。そのあと弱火にして12分くらいです。時間は蒸し器のサイズにもよるのでサイズによってちょこっとずつ調整してください。何回かに分けて蒸していくと蒸し器の温度がどんどん上がってしまうのでこの場合も火加減と時間を調節してください。でも蓋を頻繁に開けるのはNGですよ」
「だめなのか?」
「頻繁に蓋を開けると蒸気が逃げてしまいますから。あと蒸しすぎたり蓋をぴっちり閉めちゃうと“ス”が入っちゃうんで、それも注意事項ですね。蓋はほんの少しずらして斜めにしておいくか、濡れ布巾を挟んで蒸気がこもりすぎないよう外に逃がすんです。そうすると蒸し器の中の温度が一定に保たれて失敗がないです」
「“す”ってなんだ?」
「プリンの中に空気の泡が入ることを“ス”が入るって言うんですよ。いかにも手作りって感じで僕は嫌いじゃないですけどね。でも入っていないほうが見た目が綺麗です。舌触りも滑らかになります」
「味は変わるのか?」
「変わらないから安心してください」
古泉が俺に向かってにこっと笑いかける。
「ちなみに大きく作りたいならオーブンが便利です。平たい耐熱容器に流し入れてお湯を張った鉄板に乗せ160~170℃くらいで30~40分くらいでしょうか。プリン液の高さが厚めだと蒸しあがるのに時間がかかるので時間はこれより長めにしたほうが無難でしょうか。バケツプリンとか、僕も一度作ってみたいものですが、やはり家庭用のオーブンでは難しいですね。バケツがオーブンに入りきりません…。鉄板にお湯を絶対に張ってください。でないと必ず失敗です。生焼けで食べられません」
「プリンも生焼けになるのか」
「なりますよ。半生ですから食べたらお腹壊します。お湯を張っておかないと内側まで均一に火が通らないんです。あとオーブンを使うときはプラスチックの容器は使用不可です。必ず耐熱容器など高温で使える容器を使ってください」
十五分後。
ピピピピピ…!
「おい、古泉!」
俺は音を発しているタイマーを高く掲げて早く早くと古泉を急かす。
「はい、ちょっと待ってください」
蒸し器の蓋を取ると蒸気が立ち上る。
耐え切れず蒸し器の中を覗くと、
「これは…!」
出来立てのプリンは思わず身を乗り出して覗き込んでしまうほど美味そうな色と甘い匂いを発していた。
「熱いからもう少し待ってください」
古泉が竹串を一本取り出してプリンに刺した。
「何してんだ?」
「きちんと中まで火が通っているか確認しているんですよ」
古泉はプリンに突き刺した竹串を引き抜き、串の先を確認している。
「竹串に何も付いてこなければ蒸し上がりです」
「完成か?」
「完成です」
そんなに顔を近づけていると火傷しますよ、と湯気の立つプリンを前に涎を垂らしそうな勢いで張り付いてしまった俺に苦笑しつつ、綺麗に蒸しあがったプリンの姿に古泉もにこにこである。
「上出来ですね」
あとで涼宮さんたちにおすそ分けを持っていきましょう、と古泉は微笑み、蒸し器からプリンを取り出ていく。
それから少し温度が下がって持てるようになった温かいプリンを一つ手に取ると、それを俺の手に乗せた。
「作り手の特権ですよ」
スプーンを持ち上げてウィンクした古泉のことはほっといて、その手からスプーンを奪い取る。
古泉作の出来立ての温かいプリンは、素朴でどこか懐かしい味で、それはもう筆舌し難いほど美味かった。
(我が家のプリンの作り方そのままです。なのでかなりアバウトです。)
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