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略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by - 2026.06.09,Tue
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Posted by バタフライ効果 - 2008.07.08,Tue
(七夕ネタ・古泉視点)

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 遅れて現れた涼宮さんは思い切りよくドアを開くと、肩に担いだ竹とともに部室に入ってきた。
 どうやら今年も学校裏の竹林から青竹一本を無断で拝借してきたらしい。
「私はこういうイベント事はしっかりやることにしてんのよ」
 七夕を祝うわよ、と涼宮さんが去年と同じく短冊と筆ペンを僕たちに配る。
「ただでさえ年一でしか会えないってのに、なんだって他人の願いなんぞを叶えなきゃならんのかね?織姫も彦星もいい迷惑だろうに…」
「ははは、誰もがそこを疑問に思いつつも自分の欲求には勝てず短冊に願望を綴る日ってことでいいじゃないですか。どうせ誰も本気で叶うなんて思ってやいないでしょう」
 思わず、といった体で呟いた彼に、僕は小さな声で言った。
「古泉、去年と同じこと書いてんじゃねえよ」
 僕の手元を覗き込んだ彼が眉をしかめた。
 僕は少し悩んで、結局二つの短冊に去年と同じ四文字熟語を書いていた。
「これが僕の願いなのだから、仕方ありません」
 世界平和。
 家内安全。
 十六年後と二十五年後の願いじゃない、今日も明日も十六年後も二十五年後も願うだろう、偽らざる僕の願い。
「あなたはまだ書かれていないようですね」
「……ああ」
 どうやら彼は何を書けばいいか思い浮かばずに悩んでいるようだった。
「ちょっとキョン!あんたいつまで悩んでんのよ!ぼやぼやしてたら織姫も彦星も逃げちゃうじゃないの!」
「いや、星が逃げるかよ」
 涼宮さんの書き終えた短冊の願いに彼が溜め息を吐く。彼の性質上、何か言いたかっただろうが、何もコメントしなかったのは懸命と言えるだろう。「さっさと書きなさい!」と急かされて彼はようやく短冊の上で筆ペンを走らせ始める。
 そうして彼の書き終えた短冊を見れば、
「おや、結局あなたも去年と同じ願い事ですか?」
「……思いつかなかったんだよ、悪いか」
「いえ、まさか。見てください」
 先に書き終わって既に竹に吊るされた長門さんと朝比奈さんの短冊を示す。
「……なんだこりゃ」
「ふふ、去年と願い事が違うのは涼宮さんだけだったようですね」
 去年と同じ内容の短冊に涼宮さんが「あんたたち、そんなんで今の時代を生き残れると思ってんの!お願いなんて欲張ったもん勝ちよ!」と少し不機嫌になられたが閉鎖空間を発生させるような類の不機嫌さではなかったので、俺たちはつかの間七夕気分を充分に味わってから帰途に着いた。
 坂を下りながら、曇り空をぼんやりと彼が眺めている。
「何をお考えですか?」
 何となく、彼が何を考えているかということは予測できたが僕は聞いた。
「別に」
 素っ気なく返した彼に僕は、
「雨、降らなければいいですね」
「……」
 そっと呟くと、僕の目がこちらをじっと見つめてくる。
「それに雲の下が雨でも、上は晴れてますから」
 彼の反応を見ながら続ける。
「心配はいりませんよ、二人は会えます」
「……そうかよ」
「はい」
 僕の予測した彼の思考は当たらずとも遠からずだったらしく、彼はどこか憂鬱そうに、けれどしっかりと僕の言葉の意味を飲み込んで頷いた。彼はリアリストだが、反面同じくらいロマンチストでもある。想像力と感受性が豊かなのだろう。
 彼が嘆息して、何か呟いた。
「――はい?何か言いました?」
 呟きはとても小さく、聞き返した僕を彼は些か剣呑な目つきで見つめ返してきた。
 いつの間にか、女性陣と別れる場所まで来ていた。
 先を歩いていた彼女たちが僕たちを振り返って手を振る。僕も振り返し、彼女たちはそれぞれの方向へ別れていった。
 彼女たちを見送ると、彼が僕のほうを振り返った。
「おい」
「はい?」
 呼び止めておきながら、彼は一度小さく開いた口を何か言う前に再び閉じた。
 口元が引き結ばれ、僅かに揺れた視線が僕から逸らされる。
「……いや、なんでもない」
「言いかけてやめないでくださいよ。気になります」
「何言おうとしてたか忘れたんだよ」
 じゃあな、と歩き出す彼の背中はこの話題は打ち切りだと言に語っていて、僕をもう一度振り返ることはなかった。
 腑に落ちない感覚が僕の後ろ髪を引いたが、このままここに立ったままでいても仕方がないと僕も足を踏み出す。
 七月七日。今日は七夕。
 残念ながら目の前は曇天に支配されていて、まるで閉鎖空間内のような空模様だが、雲の上では星が煌くことだろう。
 世界平和。家内安全。僕の願い。
 十六年後と二十五年後の願いじゃない、今日も明日も十六年後も二十五年後も願うだろう、偽らざる僕の願い。
 どうか親愛なる彼らの世界に愛と光溢れる平和を。
 どうか親愛なる彼らに幸福と温かさに満ちた世界を。
 世界を守っているなんて漠然としたものではなく、彼らの日常を守っているのだと思えば、そのための手伝いをしていると思えば、灰色の世界で戦うしかない僕という存在も意味があると思えた。ランダムに選ばれただけの存在だとしても、今このときこの思いもこの願いも僕のものだ。
 僕は願う。
 厚い雲を突き破り、十六光年と二十五光年を越えて、願いよ届け。
 
 
 
 
 
 ――――がずっと笑ってくれていますように。

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