略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2008.07.24,Thu
正直に言おう、男子高校生二人組がスーパーでカゴ持って仲良く買い物なんて、新人お笑い芸人の芸より笑えない。ああ、笑えないったら笑えない!
しかし俺と古泉という男子高校生二人組はスーパーにいた。イッツアナウ。現在進行形で。
このスーパーを利用するのは初めてです、とカゴを片手に持った古泉が興味深げに、だが不躾な印象を与えない程度にきょろきょろしながら歩いていく。
若い奥様方やそれほど若くない奥様方が古泉にちらりちらりと視線をくれているのが、古泉の後ろにいる俺に見える。しかし見られることに慣れきっているらしい長身美形様は奥様方の視線なんて微塵も気に留めず、堂々たる足取りで進んでいく。忌々しい。俺のこの居た堪れなさをどうしてくれよう。まだ夕方の混雑する時間でなくてよかった。
不躾な興味津々の視線を隠しもせずに古泉を見ていた奥様の一人と目が合った古泉は微笑むと上品かつ紳士的な態度で軽く会釈をした。相手の奥様は慌てて愛想笑いを浮かべるとその場からそそくさと離れていく。
「知り合いか?」
「いえ?目が合ったので。とりあえず会釈をしておけば間違いはないでしょう?」
「……」
そうだった、この男は歩くスマイルバーゲンセールだった。しかも全方位放射型。ハルヒがいなくても笑顔は売り放題らしい。もちろん無料だ。まったくありがたいね。ほしいやつは古泉と目を合わせろ。漏れなく愛想笑いがもらえるぞ。
「どうしましたか?」
「どうもしねぇよ」
「そうですか?なにやらご機嫌斜めのようですが」
人の顔を覗きこみつつ首を傾げるな。お前の図体でやってもちっとも可愛くないっての。
「俺はいつだってこの顔だ。気のせいだろ」
ほら、さっさと必要なもの買っちまおうぜ。
俺はどこの売り場に何の用があるかもわからないくせに、古泉の前を歩く。古泉は大人しく俺の後ろに付いてきた。
ずかずか歩いていく俺の手を、時折古泉の手が引いて方向修正しては必要な売り場へ連れて行く。
「お前、このスーパー初めてって言ってなかったか?」
詳しいな。
「初めてですよ。でもほら、上に商品名が書かれていますから」
古泉の指が指す天井へと視線をやると確かにネームプレートがあった。調味料、乾物、缶詰、お菓子、エトセトラ。
「それに、スーパーの売り場などにそれほど違いはありません」
じゃあお前が最初にきょろきょろしてたのは、
「内部の広さを見て、どんなものがどの辺りに配置されているかを考えていたのですよ」
洗剤などが置かれている場所に入り込んでしまっても仕方ありませんから。
ふ、と古泉が笑う。
「あと特売品が置かれている場所の検討を付けていたのです」
「特売品?」
「はい。そういうものは人の目に付く場所に配置されているものですから」
いや、俺が言いたかったのは、
「お前が特売品?」
お前のイメージじゃないだろ。
「涼宮さんがいないところなら、僕だってほしいものが少しでも安く手に入るならそれに越したことはないと考えますよ」
「所帯じみてるな」
「じみてますよ。あなたの中で僕はいったいどんな生活をしているんでしょうね?あなたは僕の住いがどうなっているか知っていらっしゃるし、食事だって作って差し上げたのに。あなたの中の僕は毎日フランス料理のフルコースでも食べているんでしょうかね?」
「……そこまでは言わんが」
というか、お前が作ってみせた料理を考えれば、あながち間違ってもいないだろ。一人暮らしの高校生男子の夕食であんな小洒落たパスタ料理が出てくるとは。あれは料理を作れるという意外性も込みでお前のイメージからそう外れていなかった。
だいたい実情を知ってもお前の顔は一般的じゃない。
「一般的じゃないと言われましても、自分の顔ですからねぇ。そうですか、としか言いようがないですね」
「それは平々凡々な俺へのあてつけか?嫌味か?」
「顔なんて皮膚一枚の話じゃないですか。あと三十年四十年すればどこにでもいるただの中年ですよ」
「……いや、その頃のお前は多分美中年とか呼ばれてんだろうよ。俺やそのほかもろもろの男共がハゲたり腹が出たり加齢臭に悩まされててもお前は颯爽としてんだろうよ。だいたい、顔ってのは皮膚一枚の話じゃないだろ。パーツの組み合わせが肝心なんじゃねぇか。忌々しい。…って、話が大幅にずれてるだろ!」
しかもあと三十年四十年後の前に今このときが問題なんだっての!
「ははは、あなたに褒めていただけるなら、この顔もまんざらでもないと思いますよ」
「褒めてない!」
「こういうのは受け手側の解釈一つですから」
僕は褒め言葉として受け取らせてもらいます、と古泉が笑う。
しゃべりながらも、古泉の手はパッパッと商品を手に取り品定めしてからカゴへと投入していく。
「これくらいで大丈夫でしょう」
「そうか」
空いている所を狙って俺と古泉はレジに並ぶ。
会計を済ませるとき、カゴの中から商品の一つを抜き出すと、
「これは俺が払う」
古泉が何か言う前にレジのお姉さんに商品を渡した。
「生活費は機関から出るんですから、気を使っていただかなくてもいいのですが…」
「うるさい」
俺は支払いを済ませるとさっさとスーパーの外に出た。
外で待ってると、ガラス越しに会計を済ませた古泉がカゴの中身をビニール袋に詰めているのが見えた。
男子高校生が、と思うとなにやら滑稽な風景ではある。古泉の容姿と相まってあいつの周りだけ異空間が発生しているように見えるが、本人は少しも気にした様子がないのでこれはこれで問題はないのだろう。しかし買い物を終えた奥様方だけでなく、レジのお姉様方までもが古泉を気にしてちらちらと様子を窺っているのはやはり奇異だが。
「お待たせしました」
古泉が外に出てくる。古泉の動きに合わせて、奥様方、お姉様方の視線も一緒に外に流れてきた。
「お前ゴキブリホイホイ並みだな」
「はい?」
まったく、やはり古泉の周りには異空間が発生しているに違いない。もしくは古泉の背後でブラックホールが口を開けているんだろう。
「なんでもねぇよ。さっさと行くぞ」
(後半に続く)
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