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略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by - 2026.06.09,Tue
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Posted by バタフライ効果 - 2008.05.27,Tue

 

拍手[4回]


 
 よりにもよって、どうして今なんだ、この時代なんだと胸中で悪態をつくのは果たして何度目か。
 俺はモニターを睨みながらコツコツと指先でキーボードの端を叩いた。
「はかどっていないようですね」
 俺一人だった室内に、僅かな風の流れと共に新たな登場人物が加わったが、俺は声がしたほうを振り向きもせずモニターを睨みつける。
「不法侵入」
「ロックは解除されましたよ」
「お前のIDコードで入室が規制される場所なんか、あいつの自室くらいじゃねーか」
 苛立っていることを隠す気にもならず、俺の指先は先程から定期的にコツコツと音を立てた。
 侵入者は「失礼します」と言いながら俺の隣りに腰を下ろすと暖かな飲み物が入ったカップを俺の横に置く。
 どうもとおざなりに答えてカップを手に取り口元に持っていくとコーヒーのいい匂いが嗅覚を刺激した。
「……甘い」
 カップから口を離してすぐに不満を口にした俺を見て、幕僚総長が微笑んだ。
「まだ夕食を取っていらっしゃらないでしょう?空腹にブラックでは胃を痛めてしまいますから」
 僭越ながらミルクと砂糖を少々入れさせてもらいました、と幕僚総長は自分のカップを口に持っていく。
 お前のは、と目で問えば、ブラックですよ、と平然と返してきやがる。
 交換しろと俺が持っていたカップを幕僚総長に向かって突き出せば、奴は白い手袋に包まれた手でやんわりと俺の手を押し返して否と示した。
 俺は眉をしかめて、けれど仕方なくまた手に持っていたカップを口に持っていく。咽喉が渇いていたんだ。そして俺は奴が言うようにもう結構な遅い時間だというのにまだ夕食を取っていないので腹が減っている。
「で?」
 何の用だと俺は再びモニターに目を戻しながら問う。
「夕食をご一緒しませんかと誘いに」
 俺は甘ったるいカフェオレを一口飲み込み、モニターから目を上げてにっこりと微笑んだ。
「幕僚総長殿自らのお誘いをお断りするのは大変に遺憾ですが、まだ職務が残っておりますので」
 てめーがさっきの会議で却下した案件の修正案を作ってる俺に対しての嫌味かこの野郎!という意味を込めて睨みつけてやると幕僚総長はやれやれといった仕草で肩を竦める。
「公私混同はどうかと思いますよ、作戦参謀」
 僕だって好きであなたが作成した資料にケチをつけたわけではありません、と平然と言い切りやがった。
 どうやらお邪魔だったようですね、と席を立とうとした幕僚総長に、俺は思わず声を掛ける。
「……どこが悪かった」
 頭から資料の洗い直しをしているが、俺にはどうしてもこの案が通らなかった理由がわからん。
「簡単ですよ。涼宮閣下のお気に召さなかったからです」
 俺はキーボードに頭を打ち付けるかと思ったね。
「なんであいつのお気に召さなきゃならんのだ!!」
 そもそもそういう提案をするためのものじゃないだろう、と俺は苛々と頭を掻き毟った。
「総司令は涼宮閣下ですからね、すべての決定権は彼女の手中です」
「あいつが気に入るかどうかで案を採用してたら俺らの艦隊は敵と戦闘せずとも撃沈する」
 お前だってわかっているだろうが。
「ええ、勿論です。ですからあなたの様子を伺いにきたのです」
 幕僚総長は横から手を伸ばすとコンソールを弄ってモニターを自分の前にも出現させ、白い手袋に包まれた長い指がキーボードを叩いた。
「……なんだこの過剰かつ無駄な装飾は」
 幕僚総長が修正した部分を読んでいくうちにどんどん俺の眉間の皺が増える。
「あなたの作る料理は大変美味ですが閣下の目からすると彩りというものが不足しているのです」
 女性は味だけでなく見た目も重視するものなのですよ、と無駄を排したシンプルかつ実用性を重視した俺の作戦案に経費削減とは正反対のあってもなくてもいい過剰な装飾を施して幕僚総長が微笑む。
「さてこれで目下あなたを悩ましていた仕事は解決しました」
 続きは聞かなくてもわかっている。
「夕食にお誘いしても?」
 わかっていると言っているのにわざわざ嫌味ったらしく聞いて、艦内きっての優男が期待を込めた目で俺を見た。
「…………お前のおごりだろうな?」
「かしこまりました」
 席を立った幕僚総長は給仕のように恭しく俺にお辞儀をして、その右手を差し出した。
「行きましょうか」
「ああ」
 階級の高い奴が部下相手にいったい何をやってんだか、と差し出された白い手を俺はバシリと叩いて立ち上がる。
 差し出していたほうも俺が手を取るだなんて思っていなかっただろう、すぐに叩かれた手を引いてドアのほうに足を向けた。
 俺はまた、よりにもよって、どうして今なんだ、この時代なんだと胸中で静かに悪態をつく。
 俺のようにやる気のない不真面目な軍人が末席とはいえ幕僚の席を埋め、戦艦に乗り宇宙という膨大な海域に漕ぎ出すことになろうとは、士官学校に入学したときには思いもしなかった。たった数年で情勢は激変し、時世は混乱の時代を歩み出していた。俺の未来予想図では暇な軍人として辺境でもいい惑星勤務の閑職に就き定年を迎える予定だったのに。次に地上に降り立てるのはいつになるのか。
 そして下手すれば明日どころか数時間後に戦闘が起こっても別段おかしくない不安定な情勢だというのに、今このときのなんと平和なことか。
 できるだけこの平和が続くようにと願いながら俺は幕僚総長の隣りに肩を並べ、その背中をバシンと叩いた。
「痛いですよ」
 幕僚総長がたいして痛みを感じていない顔で文句を言ったが聞き流し、俺は大きく一歩を踏み出す。
「腹が減った。早く行くぞ」
 
(タイトルを「世が世なら」から「In better times」に変更。翻訳サイトで直訳しただけなので意味は「世が世なら」です)

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