略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by バタフライ効果 - 2008.09.29,Mon
多分、自分には人が普通に思ったり願ったりするほど欲しいものなどないのだ、と思った。とても静かに、自分の欲望への温度の低さを思った。世界はいつだって薄い膜の向こう側にあって、僕にはどうしたって遠かった。どれほど親しく言葉を交わしても、相手との間には見えない何かがあるように感じられた。感覚が遠いのだ。そして僕を含めた多くの人生に小説にあるような劇的なドラマはなく、高低もなく、可もなく不可もなく。たとえば世界を救う超能力と呼ばれる力を手に入れたとしても。実際超能力と呼ばれる力を手にしている僕に出来ることや叶うことはごく僅かだ。ただ、僕にだって全く欲がないわけじゃない。腹の底のほうから地を這うようにして湧き上がってくるような何かは、確かにある。それは多分弁解にも似た、あえて名前を付けるなら醜悪な自己欲みたいなものが。
誰だって手を伸ばせば手に入るものなら自然に手を延ばして手に入れるだろう。反対に、見込みのないものには誰だって無意識に避ける。そして僕は手に入らないとわかっているものに向かって手を伸ばし縋れるほど自分のプライドが低くないこともわかっている。自己欲だ。僕だってそれなりに自分が可愛い。下手に自尊心を傷つけるようなことはしたくない。
それでも身の内に宿っていた小さな熱に突き動かされて炎の中に飛び込んでしまいたくなる衝動も、また存在することは否定できなかった。
彼は誘蛾灯だ。
僕は脳の片隅で瞬く黄色の危険信号に気付いていながらも、火に引き寄せられる虫のようにどこか無意識に彼に引き寄せられてしまう。衝動はやはり衝動だ。身を焦がすとわかっていても手を伸ばさずにはいられない。燃えて、地に落ちるとわかっているのに。否、地に落ちた後もきっと僕は彼に惹かれてしまうのだろう。
手を伸ばしたところで、僕の手は僕を覆う薄い膜によって遮られるとわかっている。けれど無意識の衝動というものは僕自身にも抑えがたくまた回避不可能なほど反射的なものだということを僕は理解している。僕は僕自身の愚かさを自覚し、その愚かさに、僕は無性に耐えられない、と思った。
つらいのだ、苦しいのだ、と思った。
久しく忘れていた感覚だった。
世界と自分との間に隔たりができて、僕の感覚はどこか遠くなっていたから、量の少ない薄味の精進料理を毎日食べていた身に、いきなり五百グラムのサーロインステーキを目の前に置かれたみたいな感覚だ。
視覚だけでも衝撃は大きい。
けれど律儀に嗅覚は反応し、胃は正直に収縮する。
眩暈がした。
僕にもまだこんなにも本能が残っていたのか、と。
驚愕し、混乱し、困惑した。
達観を気取り理屈を捏ね繰り回してばかりの理性より、育ち盛りのこの身体は本能に忠実で正直だった。
今更肉など口にできようもないし、食べたところで僕の胃はきっと拒絶反応を起こすことだろう。そして何より、僕には昔の自分がサーロインステーキが好きだったかもわからない。
なのに僕は、僕がずっと飢えていたことを知ってしまった。
誰だって手を伸ばせば手に入るものなら自然に手を延ばして手に入れるだろう。反対に、見込みのないものには誰だって無意識に避ける。そして僕は手に入らないとわかっているものに向かって手を伸ばし縋れるほど自分のプライドが低くないこともわかっている。自己欲だ。僕だってそれなりに自分が可愛い。下手に自尊心を傷つけるようなことはしたくない。
それでも身の内に宿っていた小さな熱に突き動かされて炎の中に飛び込んでしまいたくなる衝動も、また存在することは否定できなかった。
彼は誘蛾灯だ。
僕は脳の片隅で瞬く黄色の危険信号に気付いていながらも、火に引き寄せられる虫のようにどこか無意識に彼に引き寄せられてしまう。衝動はやはり衝動だ。身を焦がすとわかっていても手を伸ばさずにはいられない。燃えて、地に落ちるとわかっているのに。否、地に落ちた後もきっと僕は彼に惹かれてしまうのだろう。
手を伸ばしたところで、僕の手は僕を覆う薄い膜によって遮られるとわかっている。けれど無意識の衝動というものは僕自身にも抑えがたくまた回避不可能なほど反射的なものだということを僕は理解している。僕は僕自身の愚かさを自覚し、その愚かさに、僕は無性に耐えられない、と思った。
つらいのだ、苦しいのだ、と思った。
久しく忘れていた感覚だった。
世界と自分との間に隔たりができて、僕の感覚はどこか遠くなっていたから、量の少ない薄味の精進料理を毎日食べていた身に、いきなり五百グラムのサーロインステーキを目の前に置かれたみたいな感覚だ。
視覚だけでも衝撃は大きい。
けれど律儀に嗅覚は反応し、胃は正直に収縮する。
眩暈がした。
僕にもまだこんなにも本能が残っていたのか、と。
驚愕し、混乱し、困惑した。
達観を気取り理屈を捏ね繰り回してばかりの理性より、育ち盛りのこの身体は本能に忠実で正直だった。
今更肉など口にできようもないし、食べたところで僕の胃はきっと拒絶反応を起こすことだろう。そして何より、僕には昔の自分がサーロインステーキが好きだったかもわからない。
なのに僕は、僕がずっと飢えていたことを知ってしまった。
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