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略して「バタフライ効果」。男子団員二人中心のテキストを取り扱っています。
Posted by - 2026.06.10,Wed
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Posted by バタフライ効果 - 2009.04.02,Thu

(捏造会長とキョン)

拍手[8回]


 
 司令部から召集がかかった。
 現在のこちらの艦の滞在領域は電波が不安定になりやすいため通信による傍受を考慮して、と表向きはなっているが、ただ単に呼び出してきた男の気まぐれだろう。
 細々と面倒くさい手続きを終えて入室すると男がソファにふんぞり返っていた。
「お久しぶりです」
 こんな状態の男に敬礼するのも馬鹿馬鹿しいが、一応敬礼しておく。
「よお」
 眼鏡は既にしていない。今日はどうやら今日はくつろぎモードのようだ。
 完全にリラックスモードの理由は多分…
「……喜緑さんはどこかに出向中だな、こりゃ」
 現在の男の右腕的存在の女性の穏やかな顔を思い浮かべる。三歩下がって上司の影を踏まずといった風情で、いつだって慎ましい態度で目立たないが、有能な女性だ。有能すぎて、この男でも気が抜けない相手だった。
「何か言ったか?」
 男はソファに深く腰掛けローテーブルの上に長い足を組んで投げ出し、口元には火がついていない煙草を銜えている。
「いいえ、何も」
 俺はローテーブルに近寄るとそこに置かれていたライターを拾った。更に歩を進めて男に近寄り身を屈めると、まだ火がついていなかった煙草にライターの火を近づける。男が息を吸い込むと煙草に火が宿った。
「それで」
「それで?」
 男が煙草を口元から離し、わざと俺のほうへ向けて煙を吐き出した。俺はその煙を手で払いながら、ライターを携帯灰皿のそばに戻す。
「用件は何ですか?」
 問う俺に、男が意地悪い表情でにやりと笑った。
「退屈しのぎ」
「…………」
 何となく予想はついていたため、俺は深々と溜め息を吐いた。
「俺に遊んでほしいならわざわざ定期連絡で呼び出さないで、そう言ってください」
「ほほう?お前が自分のプライベートタイムを使ってまで俺に会いたいと思っているとは知らなかったな。今度からそうしてやろう」
「やめてください。あんたが言うと洒落にならない。本気でやるつもりでしょう」
「俺は下らん冗談など言わん」
「公私はきっちり区別しろと言ったのは会長でしょうに…。俺だって暇じゃないんですよ」
「俺だって暇じゃないさ。だが、たまには息抜きも必要だろう?」
「その息抜きのために俺を呼び出さないでください。会長がそんなに俺と会いたいとは知りませんでしたよ」
「会いたかったさ。なんせお前は俺のお気に入りだからな」
 男がにやにやと笑う。
「影でお前なんて言われているか、知っているか?」
「……いいえ」
「俺のスパイ、愛人、ペット――」
 色々言われてるぞ、と指を折りながら楽しそうに言う。
「おかしな噂が立っているってわかっているなら尚更わざわざ呼び出さないでくださいよ!」
「お前が本当に俺のスパイだったらこんな風に呼び出しゃあしねぇよ」
 わかってて面白がって俺を呼び出して噂を煽ってやがるな!
 もう何も言うまい。
 ――いや、やっぱり言う。
「ホットライン使えばいいじゃないですか」
「俺とお前が専用ホットライン持ってるって、お前んとこの脳内花畑女や犬っころに知れてもいいのか?」
「…………!」
 無意識に胸ポケットにしまってある携帯端末の存在を意識した。
「そう簡単に気づかれるような仕掛けはしてないがな」
 携帯灰皿を手元に引き寄せると、男の手が煙草の火を揉み消す。
「だから俺と話がしたくなったら使えばいい」
 目を細め俺を見つめて、男が笑った。
「気が向けば助言くらいしてやろう」
 俺が使っている携帯端末は男から支給されたものだった。一見すると軍で支給されている一般的な携帯端末となんら違いはないが、かなり特殊な仕掛けが施されている。その気になれば、情報機密類が集中するこの男と機密レベルの専用チャンネルから直通で秘密裏に繋がるホットラインも組み込まれている。俺はそれをハルヒにも古泉にも言っていない。
「……あんたには敵わない……」
 何もかもを見抜かれていることを痛感した。
「当たり前だ」
 作戦を立てるためにはまず信憑性の高い情報とその量が要求される。
 俺は今とてもほしい情報があった。長門の情報収集能力を持ってしても手が届かない、機密扱いの情報が。
 俺がほしいものはこの男が持っている。
 そして何より、俺は誰かからの助言を求めていた。
 決断はハルヒの仕事だ。決断が必要になるまで内容を詰めてからでなければハルヒに仕事はできない。長門や古泉に相談はできる。相談はできるが、一段上の目線から作戦を判断してくれるわけではない。
 甘えだとはわかっていた。だが俺は助言を欲していた。
 自分の作戦による失敗が……怖かった。経歴に傷が付くことが怖いんじゃない、守りたいものが傷つくかもしれない可能性が、俺を視野狭窄にする。作戦の規模が大きくなればなるほど、盲目になっていくようだった。迷えば弱くなるとわかっていたのに。男の下にいたときには、こんなことは少しも考えなかったというのに。
「……条件は、」
 たとえどんなに小さな情報でも無条件でくれるわけがないだろう。そんなに甘い男じゃない。そんな生易しい相手ではない。
「お前が持っているものとは何だ?」
 男が唇を弓形に引き上げる。
「お前が持っているものなんてせいぜいお前自身と、お前にまつわる人間との関係性だろう?」
 全くその通りだったので、言い返せない。
 だから俺は続く言葉をただじっと待った。
「お前、俺に身内の情報を売れるか?関係性を俺の前に差し出せるか?」
「な…っ!」
 そんなことが出来るわけがない!
 反射的に男を睨みつければ、猫が虫を嬲るような目でこちらを見ていた。
「心配するな、お前に仲間を裏切るようなことはさせはしないさ。俺は優しいからな」
 ではどうしようか、と男の目が俺に問う。
「…………あんたがそんなに俺に執着があるとは知らなかったですよ」
 苦し紛れに呟けば、男の咽喉が鳴った。
「ちょっと俺のそばから離れていたくらいで一人前になったつもりか、子猫ちゃん?」
 差し伸べられた手に俺は逆えず、ソファの近くに膝を着いた。
 白い手袋をした男の手が、俺の頬に触れる。
「お前は、誰のものだ?」
「…………」
 俺は答えず、瞼を伏せた。それが答えだった。
 対等じゃなかった。取引ですらなかった。
 男が低く笑う。
「いい子にしてりゃあ、美味しい餌を与えてやろうじゃないか」
 
・・・・・・・・・・
[cat in bird cage/猫は鳥籠の中]
(他の射手座とは平行世界とでも思ってください。分岐点は枝分かれした場所ごとにあり、選んだ道とは別に選ばなかった道を選んだ場合の未来、という感じで)
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